血と聖水[「神の祝福あれ」







聖女マリナは無事聖都に届け終わり、額の傷は刹那が癒した。エタナエル王国の野望はアルザールの死と共に散った。
洗脳されていた人間もヴァンパイアも元に戻り、聖都は神聖なる地として巡礼者が訪れ、神の名を語る法王がいる、特別自治区であった。世界でも希少とされている、ティエリアと同じ中性の神子や両性具有の神子が多数存在する聖都。
中央聖教会では、いつものようにたくさんの神父たちが、賛美歌を歌い、人々に神の言葉を語り、神の偉大さを説教し、そして聖書を読む。懺悔も聞き入れる。

刹那は、しばらく聖女マリナと過ごすということで、聖都に残るようであった。

戦い終わって。
使徒としてのネイを、ティエリアは全く怖がらなかった。
だから、ロックオンはティエリアを伴侶に選んだのだろう。この魂なら、自分を愛してくれると。何があっても、愛してくれると。
ティエリアは、食べられてもいいと本気で思っていた。それがロックオンなら、ロックオンの血と肉となって永遠に一つになれるのだ。ある意味、究極の犠牲愛。
だが、ロックオンはそんなこと望んではいなかった。
ロックオンは、世界の全てからティエリアを守ると誓ったのだ。自分がティエリアを捕食しては、愛する意味がなくなる。

「法王が参られます」
ティエリアは、中性ということがハンター協会を通じて法王に知らされているので、神子としての認定を受けることになった。
「汝、神の子よ。神は汝を祝福し、汝は神に愛される。神子としてここに認定しよう」
法王は、ティエリアに神の祝福の言葉を与える。
ティエリアは、跪いて法王の祝福を受けていた。
「ティエリア・アーデを今この瞬間をもってして、中性の神子と認めん」
普通は、中性の神子はその存在の希少さから聖都を出ることは許されない。
一生を、聖都で過ごし、人々に祝福を与える存在となるのだが、ティエリアの場合は特例だ。ヴァンパイアの神子など、世界でティエリアただ一人。
「おっさん。もういい?ティエリア連れて帰りたい」
「無礼であろう!法王に向かってそのような口の聞き方」
聖騎士たちがどよめく。
ロックオンは、知ったことじゃないという風に、法王からティエリアを奪い返す。
「俺は、俺のルールで世界を生きてるんだよ。人間の法王なんざ、俺にとっては神の名を振りかざす権力にしがみついた枯れ木みたいなもんだ」
「この!」
聖騎士が剣を抜く。

「おやめなさい」
「しかし、げいか!」
「ネイ様・・・・我ら、人間とヴァンパイアの共存を見守りください。エタナエル共和国は、人間国家の法王とブラッド帝国の皇帝二人の名においてこの世界に新しく樹立するでしょう」
そこに、ブラッド帝国の教皇の存在の名はない。本来ならあったのだが、皇帝への反逆が明るみにでてロックオンたちに殺害され、新しい教皇は今もって空位。
法王は、ネイの存在を知っていた。ブラッド帝国の皇帝メザーリアからの密使で、その存在を知ったのだ。
ブラッド帝国の創立者であり、血の民を治めていたネイ。今は外の世界に出て生きている。状況次第では、ブラッド帝国の守護者にも破壊者にもなれるネイ。今のところ、ブラッド帝国はネイに従っている。

法王とて、穏便にすましたいのだ。
ネイの力は、たった一人のヴァンパイアに支配されていた聖都を解放したことで十分に知らしめられた。ネイと争うことは、つまりはブラッド帝国と争うこと。7千年も共存を果たしてきたエターナルヴァンパイアが住むブラッド帝国とまた昔のように戦争になれば、無意味な血が幾つも流れる。
同盟は結ばれている。それを破るようなことはしたくない。

「法王の名において、ネイ様と血族のティエリア様に、神の祝福あれ!」
法王は、神聖なる十字架を掲げると、神に向けて祈った。
光がティエリアとロックオンを包み込む。
「神子と血の神よ。いかれるがよい。世界を歩むたびへ」
法王は、頭を垂れた。
ネイは、人間世界の王や皇帝、法王などに跪かない。なぜなら、ネイは皇帝、血の神だから。人間如き、どんなに偉い人間であっても跪くことはない。ネイ、ロックオンの前ではどんな王も皇帝も、ただの人間なのだ。

神の祝福を受けて、二人は聖都を後にする。
神の存在などどうでもいい二人にとって、神の祝福など、いらぬお世話であった。

 




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