2013 冬 「出会いは最悪」@







2013、冬。

受験を控えた如月夜流(キサラギ ヨル)は、いつも通り悪友とつるんで、夜遊びをしていた。
夜遊びといっても、別にシンナー吸ったりとかタバコ吸ったり酒飲んだりとか、そんなことはしない。あいてるコンビニで雑誌やら菓子類を買い込んでたむろったり、繁華街をうろついたり、まだ営業中の小さなゲーセンに未成年立ち入り禁止の看板がたつまで遊んだり、カラオケに入ってみなで適当な歌を歌ったり。
悪友と周りは決め付けるけれど、彼にとっては馴染みやすい小学校からの友人だ。別に、夜流にとっては悪友でもなんでもなく、たんなる遊び友達。
でも、彼の両親は、その友達を悪友だ、不良だと一方的に決め付ける。

夜流の両親は両方公務員で、そのせいか幼稚園の頃からやれエスカレーター方式で英才教育だの、将来は医者か教師もしくは弁護士になれだの、とにかくうるさかった。
夜流が塾に通いだしたのは小学1年の頃から。
両親は、一人息子の夜流に期待をかけていた。いや、かけすぎていたというべきか。
父親の妹夫婦の、夜流にとって従兄弟にあたる兄弟は、上も下も私立受験に小学校、中学校と失敗して、父親は「ああはなるな」とよく夜流に言ったものだ。

エリートコースというエスカレーターから落ちた人間や乗れない人間は、屑だそうだ。

だから、夜流も両親の期待に答えるために難易度の高い私立小学校に入学し、常に優等生であり続け、そのまま上の中学には入らず、もっと難易度の高い、進学中学校を受験することを選び、見事合格して入学する。
それを、当たり前のように両親は褒めるのではなく、もっともっと上にいけとプレッシャーをかけた。
お前なら、東大も夢ではないと。

小学校の頃は、作文で自分の夢は東大を卒業して、有名な弁護士になることだと書いた記憶がある。
今思うと、ほんとバカげてる。
自分の人生、一回きり。親のいいなりになる必要なんてない。

人形のまま生きるか、それとも逆らって自分の人生を手に入れるか。
全部を放棄する選択もあるけど。
夜流は、逆らって自分の人生を自分で手に入れる選択を選んだ。

塾をさぼりだし、全ての習い事に行くのをやめ、落ち零れと両親がいう小学校時代の友人とつるむ。
同じ中学の友人なんて、形だけだ。
みんな勉強勉強って口を開けばテストの結果がどうのこうのだの、順位がどうだの、内申がどうのこうのだの、ほんと疲れる。
つるんでる友達は、普通に地元の公立中学校に通う、父親がいう、いわゆるエリートコースから落ちた「屑」だ。

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「ヨルー、おいこの子かわいいとおもわね?」
「んー。こっちのがかわいい」
買った雑誌のモデルをしている少女を、友達の一人の白井が指差す。
夜流は、次のページのモデルの少女を指差す。
「えーそうか?絶対こっちのがいいって。こっちのが胸でかいし!」
「どうでもいいっつーの」
「まーたまた〜。学校じゃもってもてのヨルく〜ん!いいね、お前は頭もいいしルックスもいいし、スポーツもできておまけになんていってもあの私立ヨーゼフ学院で成績上位保ってるで、将来株も期待高しで。彼女またかえたとか?」
「はぁ?ばっかじゃね。それ、関係ねーじゃん」
「いいじゃん。前の子ふったんなら、俺コクってもいい?」
「知るかよ」
「あいかわらずつめてーの。あ、でも前の彼女のメルアドくれるんだ?」
「もう他人だし。告りたいなら勝手にすれば。お前の名前も綾香(アヤカ)なら知ってるだろうし。前一緒に遊んだじゃんか。綾香のメルアド、なんでその時きいとかなかったんだよ」
「ばっか、友人の彼女のメルアド知ってどうすんだよ。お前っつー彼氏いんのに」
「石井って、変なとこで律儀だよな」
「ヨルがずれてるだけだろ」
「そうか?」
夜流は、ネオンで霞み、星空も見えない真っ暗な空を見上げた。

「お前、空見上げるの好きだな」
「ああ、まぁな。なんか、意味もなく空見上げちまう」
「夜流、今日はマサキ先に帰るってよ」
石井の隣にいた、もう一人の友人、マサキと仲のいい透(トオル)が、夜流に声をかけた。
「じゃー、今日はここまでにすっか?9時・・・・ちょっと早いけど解散で」
「そーしようぜ」
透が、マサキの自転車の後ろに座って、手を振った。
「じゃあな、夜流、テツ!」
テツとは、白井の下の名前だ。

如月夜流がよくつるむ友人は3人。
白井哲(シライ テツ)、川原マサキ(カワハラ マサキ)、十音透(トウネ トオル)だ。

透とマサキは家が隣同士なので、一緒に帰るらしい。
夜流は白井と一緒に、二人に手を振って別れ、それから携帯をとりだした。
メールで、今から帰ると祖母に伝えた。
両親は煩いだけなので、無視だ。

「おー。夏樹マナじゃん。おー水着だ」
隣では、雑誌の最後のページを捲っていた白井が興奮していた。
夏樹マナ(ナツキ マナ)は、最近売れっ子になってきたアイドルだ。まだ14歳で、白井や夜流と同じ中学3年生。
「おーいいね、ハイレグビキニ!かー、胸があんまりないのが微妙だけど、まだまだ育ち盛りだしなぁ、ヨル!」
「どうでもいいっつーの」
白井が見せる雑誌の最後のページを、本当にどうでもよさそうに夜流は見た。
確かに、白井が騒ぐのも分かる。美少女アイドルの中でも、顔立ちがくっきりしていて肌も白いし、どこか西洋人形を思わせる茶色のロングヘアと瞳をもつ夏樹マナは、夜流も好きだった。
 
ちなみに、夏樹マナと夜流はとっても薄いけど、親戚関係にあるらしい。
夜のネオン街を歩きながら、白井にそれを教えると、白井は更に興奮して「サインもらってきて」とお願いしだす始末。
「うっぜ。おまえうぜえ」
「この通り!ヨル様〜〜!!」
「サインくらい、拍手会かなんかいって自力でもらえよ」
「お前、自分がなんなのか分かってるのか?アイドルと親戚なんだぞ!この夏樹マナと!」
「だから?」
「だからってお前・・・トホホ、サインは無理そうだなぁ」
白井が諦め気味に名残惜しそうに雑誌を閉じて、鞄の中に入れる。
 





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