「あきら」D







「ん・・・・・」
次にあきらが目覚めた時、病室だった。
腕に点滴の針が刺さっていた。

「・・・・・・ここ、どこ?」
「ああ、よかった、目覚めたのねマナ、マナ!!」
「母さん・・・・」
母親が、ベッドの近くのパイプ椅子に座って、目覚めたあきらに涙を零して喜んだ。
「おれ・・・・どう、なったの・・・・」
「ああ、かわいそうなマナ・・・・大丈夫、もう安心して。悪いやつらはお巡りさんが捕まえてくれたから。未遂ですんだわ、マナ」
「そう・・・・・」
「いい子だから、もう一度眠りなさい、マナ」
「うん、母さん・・・・・」
「私のかわいいマナ・・・愛してるわ・・・・」

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「その・・・・・目覚めたんですか?」
「ああ、如月さんでしたね」
あきらの母親、夏樹瑞枝(ナツキ ミズエ)は、病室に入ってきた少年、如月夜流を見て、ほっとした表情で柔らかく微笑んだ。
「ええ、でもまた眠ったわ。マナ、マナ・・・・大丈夫、あなたの彼氏もちゃんとここにいるわよ。安心しなさい、マナ」

待ち合わせの12時になっても、あきらが噴水の前に現れることはなかった。
それどころか、近くで婦女暴行未遂事件が発生したと、人だかりができていた。
まさかなと思いつつも、野次馬根性もあって、担架に乗せられた人物を見たとき、夜流は心臓が止まりそうになった。
衣服を無残に裂かれたあきらが、シーツをこしのあたりまでかぶせられながら、真っ青な顔で救急車で搬送されていく途中だったのだ。
すぐに病院に母親の瑞枝が呼ばれ、そして夜流もかけつけた。
すぐ近くの病院だった。
状態を聞かされて、母親は泣き崩れヒステリックに病院で喚いていたが、未遂と分かってとりあえずは落ち着いたらしく、しきりに意識不明のあきらに「マナ」と呼びかけていた。

ああ、本当に母親に姉のマナとして扱われているのか。
そんなことを実感しつつ、夜流はあきらの友人であると自分で瑞枝に自己紹介した。
瑞枝は、大分落ち着いたのか、夜流のことをすぐに「マナの彼氏ね」といって、病室に通してくれた。

あきらの意識回復を待って数時間。
重い沈黙だった。少なくとも、夜流にとっては。
瑞枝に何を話せばいいのか分からなかった。瑞枝は瑞枝で、マナ、マナしっかりしてと何度もあきらに呼びかけていた。
ちなみに、あきらの父親にも連絡はいったそうだが、父親は仕事が忙しいとかで、病院にくることはなかった。
普通、自分の子供がこんな目にあれば、どんな重要な仕事も放り出して駆けつけるはずなのに。
本当に、夏樹家の両親は、おかしい。

「マナは、今日にでも退院できるそうよ。よかったわ・・・・もう、しばらくは家から出さないわ。何もしてないのにこんな酷い目にあわされるなんて。ああ、かわいそうなマナ。美しく生まれたのが罪ではないのに。マナ、ママがついているわ。マナ・・・・」
母親の瑞枝は、あきらの髪を優しく撫でると、額にキスをした。

「あの・・・俺、帰りますね。今日はもう、ここでおいとまします」
「マナが回復したら、また会ってやって。今はきっと辛いだろうから。男にレイプされそうになったなんて・・・・。私なら、ショックで男性恐怖症になるわ。でもマナは強い子だから、きっと立ち直るわ。それまで待ってあげてね、如月さん。どうか、マナを見捨てないでやって。マナを、愛しているのでしょう?」

そう問いかけられて、夜流は、きっぱりと答えた。

「守りたいと思います」
「ええ、守ってあげて。愛してあげてね」
「はい」
愛するというのは、どういう愛なのかうまくとらえられない。友人としての愛情なら、もう芽生えていると思う。
でも、何より守りたいと思った。
この壊れた両親からも、何からも、全てからあきらを守れたら。
友人として、守ってやれたら。

側に、いよう。
出来るだけそばにいて、守ってやろう。あきらを。俺が。


夜流がそう決意した事件であった。




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