2014冬の終わり 「トモダチ」@








「マナ、彼氏がきてるわよ」
「母さん、出てよ。今、シャワーあがったとこだから」
あきらは、シャワールームから出て、バスタオルで髪をふいて、ドアだけあけると、階下にいる母親に話しかけた。
「はいはい、全くマナはいつでも甘えん坊ね。シャワー朝も浴びたじゃないの。綺麗好きなのね」
「いいから、早くでてよ!夜流なんでしょ!」
「如月君、あがってちょうだい。マナの部屋にいってもいいけど、マナシャワーを浴びたばかりらしいの。まぁ、如月君なら変なことはしないだろうから、部屋にいってちょうだい」
「ありがとうございます。お邪魔しまーす」

夜流があきらの家に通うようになったのは、あの事件がきっかけだった。
あきらも、よく夜流の家に遊びにくるようになった。
お互いが親戚関係でもあるということで、どちらの両親にも二人は信頼されていた。
よい友達ができたと、夜流の両親は喜び、彼氏はしっかりした子だと、あきらの母親は喜んだ。あきらの父親は無関心で、家にあげても心配のない子供だと思っただけのようだったが。

「入るぞ、あきら」
「ああ、ベッドかソファーに座っといて」
シャワールームから、ちらりとあきらの生足と腕が見えて、夜流はドキンとした。
少年相手にドキドキするとか、ばかげてるけど、ほんとにあきらは同性とは思えないくらい顔も体も綺麗で、スタイルもよくて華奢で色白だった。
「何か飲む?」
室内用のパジャマを着たあきらが部屋の奥から現れた。
ちなみに、夏樹家は資産家で、家も広い。夜流の家の広さの5倍はありそうで、いつもはハウスクリーニングを頼んで清掃しているらしい。
2Fに設けられた、マナの部屋・・・・今はあきらの部屋でもあるのだが、その部屋は30畳はあろう広さで、ベッドにソファやその他の家具から、バスマットにトイレ、さらには小型冷蔵庫まで備え付けられた、ホテルのスイートルームのような部屋だった。

「んー、水でいい」
「じゃあ、ポカリ」
小型冷蔵庫から、ポカリスエットのボトルを出して、それをあきらは夜流に投げてよこした。
「いつ見ても広いよな、お前の部屋」
「マナの部屋だけどね・・・俺の部屋はもともとなかったし。マナといっつも一緒に寝てたし」
「14にもなって?」
あきらは、夜流と同じ中学3年生だったけど、まだ15にはなってなかった。
誕生日は3月らしい。今は1月だから、誕生日はもうすぐだろう。
あきらは首をかしげてから、ソファに座った夜流の隣にぐしゃぐしゃになったバスタオルを投げた。
「仕方ないだろ。他に寝る場所がなかったんだもん」
あきらも、同じようにポカリスエットを小型冷蔵庫からとりだして蓋をあけると、一気に中身を煽った。
「なぁ、お前まじなの?」
「何が」
「いや、そのな。おれと同じ高校いくって」
「ああ、その話。俺が通ってる中学校教えただろ。私立聖マリエル学園」
「お前、案外頭よかったのな」
「ばかにしてる?確かに、一時期は学校行かせてもらえなかったけど、親父が世間体気にして、通わせてくれるようにしてくれたんだよ。虐待されてるんじゃないのかって、前々から学校で噂になってたから。実際、虐待されてるんだけどー」
「父親の暴力は、まだ止まらない?」
「んー。家にほとんど帰ってこないけど。いるときは別に・・・・話もしない。でも機嫌が悪いときは、ぶたれるかな」
「母親のほうは?」
「あいかわらず、俺のことマナって呼ぶ。もう拒否するのもやめたから、母親とは上手くいってるかな。虚しいけど」
あきらは、天井を仰いでから、夜流の隣に座った。
ふわりと、シャンプーのいい香りがあきらの体から漂ってくる。
着ているパジャマはどう見ても女もの。
ポタポタと雫を落とすあきらの髪を見て、夜流は苦笑してぐしゃぐしゃになったバスタオルを手にとると、それでわしゃわしゃとあきらの髪の水分を取り始めた。
「何するんだよ!」
「風邪ひくぜ?髪くらい、ちゃんとふけよ」
「うっせー」
あきらはふてくされて、でも夜流のいいなりになっていた。

「で、さぁ・・・」
「ん?」
「俺の偏差値なら、お前がいく高校に受かるって。一応、家庭教師とかつけられてるし。悪い点数とると、いっつも親父にぶたれるから。それが怖くて、勉強はちゃんとしてた」
「そっか・・・・まぁ受かるかどうかわかんないけど、お前がちゃんと高校進学する意思があるって分かって俺も嬉しい」
「ほんとは・・・・芸能界デビューする予定だったんだ。マナと一緒に。だから、もっとレベルの低い高校にするつもりだった。でも、マナが死んじゃっただろ。所属事務所は、それでもおれをデビューさせるつもりだったらしいけど・・・・母親が切れてさぁ。手がつけられなくなって、白紙になった。高校いけば、一人暮らしも許されるかなぁって思ったんだけど・・・・やっぱ、無理かな」
「ちょっと難しいんじゃないのか。でも、できるだけこの家から出るほうがお前のためだな」
「おー親友わかってるじゃん。俺もそう思う」
「お前の両親・・・・いっちゃ悪いけど、親失格だぜ」
「俺もそう思う。最低の両親に育てられてるから、いつか俺も最低になるかな?」
「ばーか、ならねーよ」
「ほんとに?」
茶色の大きな目を瞬かせるあきらは、純粋に期待に満ちた眼差しをしていた。

うわ。
俺、今かわいいとか思った。はぁ・・・・。

夜流は、苦笑して、それから頷いた。
「なるもんか。俺の親友、だろ?」
「お前にそういわれると、ちょー嬉しい」
あきらは無邪気に笑って、夜流に抱きついてきた。

あきらの体からは、シャンプーの香りのほかにボディーソープらしい、花の香りがした。

その日、夜流はあきらの家に泊まることになった。

 





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