「最後の夏」@







8月。蝉のなく声がうるさかった。
あきらはだれて、冷房をかけた部屋でアイスを食べている。
「あきら?ちょっと寒すぎないか?」
夜流が、室温をあげる。
「うー暑い。俺暑いの苦手・・・」
「そういや、昔透の家でスイカ食いまくったなぁ。夏祭りとか・・・・今年もやるのかな」
「あ、行きたい」
「一緒に行こうな」

8月の終わりにある、花火大会を交えた夏祭りに、二人は一緒にいく約束をした。

「ほら、あきらのアルバム」
「うー?」
夜流は苦笑して、まだ未完成のアルバムをあきらに見せた。
被写体は全部あきらだ。
あきらのいろんな姿が、写真に収められていた。
そのほとんどが笑顔。
夜流だけに向けられた、優しい暖かい笑顔。
「ナイトのアルバムは?」
「俺はいいの。あきらのだけ作りたかったから」
「そういうもんなの?」
あきらの頭を撫でてやる。あきらは気持ちよさそうに目を閉じた。

「このアルバムはまだ完成してないんだ。時間をかけて、まだまだこれからもたくさんのあきらの写真を撮ってこのアルバムにのせるんだ。アルバムは1冊じゃ足りないな」
「何冊作るの?」
「未定」
あきらを被写体として、日常生活のヒトコマまで、写真に収めた夜流。
十代の残された時間を、アルバムの中の写真は時間と止めてそこに留めてくれる。

ふと、夜流の携帯が鳴った。
「あ、蓮見?どうしたんだ?」
「いや、暇かなーっと思って」
「あーまぁ暇だけど。今日はちょっと予定があるから」
「そっか」
蓮見という名前に、あきらは悲しそうな瞳になった。
あきらの携帯に、蓮見のアドレスからメールが届いていた。
(最後の夏、楽しんでね)
どうして夜流との夏が最後になるのか、あきらには理解できなかった。
来年も夏はやってくる。
あきらはいつものように、蓮見のメールを削除する。

二人はまだ19にもなっていない。
まだまだ、青春の時間はたくさんある。

(来年も俺はナイトと過ごす)
あきらは、蓮見にメールを打ち返す。
蓮見から返ってきたメール。
(知ってる?夜流、9月から復学するんだって。それから、留学するんだってさ)
そのメールに、あきらは凍りついた。

こんなの、蓮見の嘘だ。
俺をおいて、ナイトがいなくなるはずがない。

「ねぇ、ナイト。9月から復学するの?」
「どうしてそれを・・・・」
「留学、するの?」
「それは・・・・」
夜流が言葉に詰まる。
そう、夜流は両親の手により、無理やり留学手続きをされていた。行き先はカナダ。
「俺をおいてかないでよ!!」
「置いてかないよ。一緒にいくんだから。ほら、将来はアメリカで結婚するんだっていっただろう?瑞希さんが手続きしてくれてるから。最初はカナダだけどさ。寒いかもしれないけど、一緒に暮らすんだ」
「ホントに!?」
あきらはぱっと顔色をかえて微笑んだ。
「瑞希さんも仕事の都合でカナダに永住することになりそうなんだって。だから、一緒だよ」
「うん、一緒!ママも、ナイトも!」
夜流はあきらを抱き上げて、くるくるとまわるとソファーにダイブインした。

これからも、ずっと一緒。

その言葉を、あきらは信じていた。夜流も、そのつもりで留学を了承した。

二人にとっての、最後の夏が訪れようとしていた。
 




NEXT