「トモダチ」B







あきらの母親と父親は離婚した。
あきらは今まで通り、自宅から学校に通うことになった。時折叔父夫妻が様子を見に訪ねて来るが、二人は歪んではいるが、上手くいっているらしい。

「夜流〜。みて、これ。似合う?」
あきらの部屋で、あきらは新しく買ってもらった服を着てそれを夜流に見せていた。
「おー。いいじゃんか。女の子なのか男の子なのかわかんねー」
「だろー。こういうユニセックスな服ならいいって。男ものの服はだめみたいだけど」
あきらの着ている服は、ユニセックスなもので、男女どちらが着ても平気なデザインになっていた。ちょっと露出度が高めで肩が露出していたり、ハーフパンツだったりするけど、でもあきらには違和感なく似合っていた。
「俺、こういう服に全部する。といっても、スカート母さん絶対買ってくるから着なきゃいけないんだけど。外出るときは極力こういう服にするよ」
「まぁ、あきら男の子だしな。一応」
「一応ってなんだよ!」
「やー。なんていうか、俺の彼女ポジションだしなぁ。笑えるわ〜」
「まじ笑える。でも、母さんもお前んちの両親も、俺のことお前の彼女って思ってるみたいだし。まぁ別にどうでもいいや。友人であることには、変わらないだろ?」
「おう」

あきらは笑顔を取り戻した。
今まで通り、夜流はあきらの家に泊まりにくる。
ただ、母親はあきらを手放さないように、夜流の家に泊まりにいくことを許さなくなった。
もしも、どこかであきらの父親が帰ってきて、誘拐でもされたら、今度こそレイプされると母親も恐れているのだ。無論、それはあきらも恐れている。

あきらに残した、あきらの父親の手紙。
それを読んで夜流は気分が悪くなったほどだ。

「愛しい我が娘マナの分身あきらへ。お前を俺のものにいつかする」

そう手紙には短く書かれていた。
いつか、あの男は本当にあきらを誘拐して、レイプしてしまうかもしれない。
守らなければ。
夜流は、一層あきらの側にいるようになった。

受験も終わり、見事あきらは夜流が通うことになっている私立ヨーゼフ学院高等部に合格した。
もう一人、外部受験した透も合格した。
あとは、卒業と入学を待つだけ。

春の風が吹き始めていた。
気づけば、あきらと出会って4ヶ月が経とうとしていた。

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「夜流、じゃま〜。もっと奥いってよ」
「無理いうなって。だいたい、なんて同じベッドで寝るんだよ。毎度毎度」
「だって、布団ないんだから仕方ないだろ!」
「ソファーでいいって」
「あれソファーベッドじゃねーんだよ!あんなんで寝れるわけねーじゃん」
「寝れる・・・・と思う」
「ぐー」
「寝るの早っ!!」

コチコチコチコチ。
壁にかけられた時計の音がやけにリアルにうるさく聞こえて、夜流は何度も寝返りを打った。

コチコチコチ。

だーうるせー。

「ん〜」
「なぁ、あきら起きてる?」
答えはなかった。

「ん・・・」
ゴロリとあきらが今度は寝返りを打った。
目の前に、あきらの綺麗な顔があった。顔は小さいと思う。全体のパーツが整っていて、寝ていても美人だった。
桜色の唇に、夜流は気づくと指を這わせていた。
ゆっくり全体をなぞるように優しく指を這わせた後、その手をひっこめる。

何やってんだよおれ!

自分の行動に気づいて、夜流は慌てて寝返りをうって、あきらに背を向ける。

コチコチコチコチ。

守るってきめた、確かに守るって決めた。
でも、それって友情だろ?
何やってンだ俺。

コチコチコチコチ。
ボーンボーンボーン。
壁にかけられていた時計が深夜0時を告げる。

ゴロンと、あきらもまた寝返りをうって、夜流に背を向けた。
そして、うっすらと目を開いて、夜流に触れられた唇に手をはわす。
哀しくはなかった。嬉しくもなかった。怖くもなかった。
なんともいえない感情だ。友情と、多分恋愛感情の間。その間をゆらゆら揺れている気持ちに似ている気がした。
夜流のことは好きだ。でも、友達として好きなのであって、恋愛対象としては見ていない。お互い、そのはずだ。・・・・・・断言は、できないけれど。
あきらは、ゆっくりと目を閉じて、また眠りについた。




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