2014年3月。 夜流もあきらも、中学校を卒業した。 友達の哲、マサキ、透も卒業した。 みんな、女子は固まって花束をもって泣いたりしていた。 男子はなんともいえない顔をして、友人に最後の別れをいったり、女子から告白されたり、逆に告白したり・・・。 短いようで長かった義務教育の最後の3年間。 思い残すことはないかと聞かれると、たくさんある。まだまだたくさん友達と遊びたかった。 でも、もう終わりだ。同じクラスメイトとして、同じ学校で学び、遊んだりふざけあうのも最後だ。 ******************************* 「あの・・・・如月夜流君!!」 「うん?」 夜流は、隣クラスの女の子に呼び止められた。 夜流は、去年に女子に振られてから、誰とも付き合っていなかった。 「あの、あの・・・・桜の木の下、あっちにいきませんか。話があるんです」 「あーうん。いいよ」 女の子は、潤んだ目で、夜流を見上げると、告白してきた。 「夜流君!ずっとあなたが好きでした!高等部も一緒だし・・・お願い、付き合ってください」 「えーと・・・」 「今、フリーなんですよね?知ってます、夜流君がもてるってこと。でも、告白した子とは大抵付き合うって。いつかふられるかもしれないけど、でも告白しないまま終わるより、私・・・・」 「ごめん」 「え」 「俺、今、付き合ってる子がいるんだ」 「嘘!だって、学校じゃ誰とも」 「違う学校の子だから」 「誰ですか、それ!」 夜流は、適当に名前を言おうとして、迷う。 「ホントは、いないんじゃないですか!?お願いです、付き合ってください!」 夜流は、桜を見上げ、それから春の空を見上げてから、ある名前を思い出した。 「いるよ・・・・あきら」 「あきら?」 「そう。あきらって子が、俺の彼女なんだ。だからごめん」 「そんな・・・・」 桜の花が、女の子の涙と一緒にざあぁぁと花を散らす。 「あーいた、夜流ーー!!!あきらきたぞー!」 透が、ぶんぶんと向こう側で手を振っていた。透の後ろには、あきらがいた。あきらは、いつも通り女生徒の制服姿だ。 「げ!!」 それを見た夜流は、タイミングの悪さに蒼白になった。 「あきら・・・・あの人が、あきら・・・・」 女の子は、たたたたとあきらの方に走っていく。 「私立聖マリエル学園・・・・私より、かわいい・・・美人・・・・あなたがいなければ!」 パァン。 女の子は、いきなりあきらの頬を平手打ちした。 何が起こったのか理解できないあきらは、そのまま叩かれた頬に手をやって、目をぱちくりとしている。 女の子は、また手を振り上げる。 その手を、透がつかむ。 「どういうことだよ、夜流?」 「あー。あきら、お前、俺と付き合ってるよな!?」 「はひ!?」 あきらは、目をぱちくりとさせて、地面がひっくり返るような声をだした。 「付き合ってるんじゃないの?変よ・・・・なんで驚くの・・・・付き合ってないんじゃないの、ほんとは」 「そ、そんなことねーって!!」 ぶんぶんと夜流は首を振る。つられて、あきらもぶんぶんと首を振った。綺麗にゆわれたツインテールの髪が左右にぶんぶん動く。 その様子がかわいくて、透は女の子の手を離して、声もなく笑うのを我慢している。 「証拠、証拠見せてよ!じゃなきゃ、納得いかない!」 女の子は、甲高く叫んだ。 「あー、証拠ね。あきら、こっち来いよ」 「あい?」 夜流は、もう破れかぶれだとばかりに、あきらの腰に手をまわし、顎を上向けると、なんとそのままキスをあきらにしてしまった。 「ん・・・・んん」 百戦錬磨と呼ばれた男、如月夜流。 ついつい、ディープキスになった。 「ん・・・・」 ぬるりと口内に入り込んできた舌の動きに、あきらの思考は完全に麻痺していた。 そのまま唇を甘くかんで、こちらの舌をなぞるように動いて、口内を蹂躙する。 「んあっ・・・・」 糸をひいて夜流の舌が去っていくのと同時に、たっていられなくなって、あきらはその場に屑折れる。 その細い体を抱き寄せる。 耳元で、夜流があきらに囁いた。 「ちょ、やりすぎたごめん・・・・彼女のふりしてくんない。あの子しつこいんだよ」 「んだよそれっ・・・・・俺、ファーストキスなのに!」 女の子に聞こえないようにやりとりをする。 あきらは真っ赤になって、夜流の胸に顔を埋めた。 夜流の顔を、まともに見ていられない。 恥ずかしすぎる。 ちょっとやべ・・・ちょっと、きた。 なんでこういう反応するわけ、あきらってば。 かわいい・・・・つか、まじ俺腐ってる。 あーもう俺だめだーあ〜。 あきら、まじごめん。あとで何発でも殴ってくれ! 一方のあきらは。 思考が麻痺して、何も考えられなかった。 ただ、骨が痺れるような甘い感触だけが背筋を通り抜けて、うまくたっていられない。 なんだよ俺・・・・なんでキスされたくらいで、こんなにまいってんだよ。 これはただの芝居だろ、芝居! 夜流、覚えてろ。あとで、ボッコボコにしてやる。 空を、二人は見上げた。 そういえば、二人とも空を見上げるのがすきらしい。 春の風がふく空は、やっぱり青かった。 NEXT |