「卒業」A








「あーきら。おーいあーきら」
夜流があきらの前で手を振るが、あきらは階段に座ったまま微動だにしない。
「だめですな、完全に違う世界にいっちゃってますな」
透がマイクをもって実況中継するようなかんじで、手を夜流に突き出す。
「それで、あきら君に手を出した夜流君はバイととっていいんですか?というか、あきら君とのキスはどうでしたか?」
「あー、俺バイなのかなぁ。そうなのかなぁ。バイだけにバイバイおれの人生みたいな〜」
「キスのほうはいかがでした?」
「はいもうご馳走様でした。めっちゃよかった。かわいかった。ちょっとやばかった」
「ほうほう、夜流君、最低ですね!乙女(?)の純情を弄ぶ最低やろーですね!」
「うん、俺サイテーだな。でもあきらの蹴り、もろに鳩尾にきた。呼吸できなかったし!あきら相当怒ってるよな」
「怒ってるというより、放心してますねこれは!」

「あきらくーん?」
「あきら〜?」

「俺の・・・・」
「はい?」
「よく聞こえないぞ、あきら」
「終わった・・・・おれの人生終わった・・・ファーストキスの相手がヤローで、しかも腰がぬけたなんて・・・・俺の人生終わった・・・」
「いやいや、まだ終わるには早いんじゃないのかな、あきらくん!」
透がバカ騒ぎを一人で繰り広げている。
透もそうだが、マサキも哲も、本当によい友人だ。
こんなことで、夜流とあきらを差別したりしないだろう。
まぁ、実際透もかわいい顔をしているだけに、男子生徒から告白されたこともあるし、そういうことに差別心をもつというよりは、別に自分に被害がこなきゃなんでもいいというタイプだ。

「あきら、怒ってる?」
「怒ってる・・・・」
「絶交とか、言わないよな?」
「絶交・・・その手があったか」
ニヤリとあきらが笑む。
「ちょ、まじでごめんって!」
夜流が、この通りとばかりに平伏する。

「ふざけてあんなことするなよ」
あきらの言葉に、夜流は透が側にいるのも忘れて、あきらの頭を撫でながら、聞き返す。
「じゃあ、本気ならいいの?」
「え・・・・」
「本気なら、いいわけ」
「冗談、ほどほどにしろよ」

「透」
「はいはーい」
「やべぇ。おれ、まじでバイみたい。あきらのこと好きかも」
「おー、それはもうどうしようもありませんなぁ。人生やり直すこともできませんし。まぁあきら次第?」
あきらは真っ赤になって、首を振ってから、立ち上がって、地面にあった石を蹴り飛ばした。
「からかうのもいい加減にしろよ!」
「俺も、なんかよくわかんなくなった。お前にたいしての感情が友情なのか、恋愛感情なのか」
「友情だろ!」
「うーんどうなんだろう?」
夜流は首をひねる。
それを真似して、あきらも小首を傾げる。
その仕草がたまらなくかわいいのだ。
透にだってかわいく見える。夜流はちょっと胸キュンしそうだった。
「あのさ。あきら、お前」
「なんだよ」
「おまえさ、言葉遣い乱暴で荒いけど・・・こう、ちょっとした仕草とか、ちょっとした反応がそこらの女の子よりすっげーかわいいの」
「はぁ?」
「それが、俺の胸をキュンキュンいわせるんだよな。責任とってくれよ!」
真顔で、夜流はあきらを見つめるが。

「アホーーー!知るか!!!」

「キャイン!」
「キャイン!!!」

怒鳴られて、透も夜流も、子犬のように逃げ出すのだった。




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