2014春の4月はじめ。 桜の花が散り始める季節。 夜流、透、あきらの三人は、無事に高等部へ入学した。 中等部に似たデザインの、ブレザーの制服。 今度ばかりは、どんなに母親が訴えても、学校側はあきらの意思を尊重し、ブレザー制服での登校となった。 はじめて着る男子の制服に、あきらはとても嬉しそうだった。 でも、髪の毛はあいかわらず綺麗にツインテールに結われてリボンで結ばれていたりするけど。 どう見ても、男装した女子生徒。 あきらは成長不良というわけではないのだが、骨格が全体的に一般男子に比べ劣る。声変わりも、声のトーンが低いだけでまだだ。 無論、男性ホルモンの分泌は微量で、あきらを男性として成長させる決定的な要因に欠けていた。 15歳になった夜流と透は、少しづつ少年から大人への輪郭を月日と一緒に成長という言葉で得ている。でも、あきらは身長が160くらいで止まったまま、もう2年も伸びていないらしい。 入学の祝辞は、入学テストで一番点のよかった者が勤めることになっている。 代表となったのは、なんと透だった。 中学では成績が下だったというのに、透がいった、IQが学年で一番高いという言葉は本当だったようで。 祝辞を終え、入学式を終えて、透と夜流は早速生徒会に誘われた。だが、二人とも断った。 まだまだ、遊びたい盛りだ。 入学式でも、あきらは一番目立っていた。 高等部は、二つに別れる。男子学部と女子学部の二つがあって、学びやも違う。隣接しているとはいえ、これから通う高校は、はっきりいって立派な男子校。 潤いにかけると、夜流は入学式早々愚痴を零していたし、透はマサキと遊びたいとすでに帰ったあとのことを考えていた。 一人、あきらだけがたくさんの在校と入学してきた男子生徒の視線に晒されて、不安そうだった。 これから、うまくやっていけるだろうか・・・。 不安に押しつぶされそうなあきらは、入学してすぐに上級生に目をつけられた。 夜流と透も目をつけられたが、生意気ということでだ。あきらの場合、違う。 いわゆる、イジメの対象のようなもの。上級生の玩具に、あきらは選ばれてしまったのだ。 金髪の夜流と、白髪の透はとにかくよく目立った。同じく明るい茶色の髪のあきらも目立ったけれど、あきらくらいの髪の色の生徒はたくさんいた。 進学校だが、風紀はわりと緩かった。 あきらはピアスも何もしていない。 上級生に、髪の色と瞳の色を注意されても、自分はドイツ人の血が入ったクォーターだと言い張る。 上級生はそれを信じない。 あきらの髪を水で濡らして、酷い時は絵の具をかけられた。 いつも夜流と透が庇ってくれたけれど、毎日側にずっといるわけじゃない。ほんのタイミングの違いですれ違ったりする。 上級生は、そんな時を見計らってあきらを無理やり屋上につれていって、髪の色が目立つだの言いがかりをつける。 今日もそうだった。 「お前、髪染めすぎ。だいたいなんだよ、このツインテールにリボンは!」 「知るかよ!文句あるなら俺の母親にいえよ!毎日髪結わなきゃ、ヒステリー起こして騒ぎまくるんだから!」 「はぁ?なにいってんだおまえ。この髪、ママにゆってもらったんでちゅか〜」 「ぎゃはははは!」 「おっかしー!」 一人の3年生が、あきらの髪のリボンを解いて、ひらひらとあきらの前で風に翻してみせた。 「返せよ!」 「女みたいな顔しやがって」 「関係ねーだろ!それマナが気に入ってたリボンだ、返せ!!」 あれは。 マナが、俺に買ってくれた大切なリボン。 黄色のリボンを、あきらは掴もうとするが、羽交い絞めにさせられている。 「知ってるか?こいつ、中学校の頃女子生徒の制服で登校してたらしいぜ。性同一障害なんだって」 「なんだ、正真正銘のオカマかよ」 「返せ!返せ!!!」 騒ぎまくるあきらの鳩尾を、もう一人の三年生が蹴り上げた。 「ぐ・・・・・」 呼吸につまる。 それでも、あきらは泣かなかった。 「なんだよ。泣けよ。なんで泣かないんだよ、お前」 たいてい、こうやっていびれば、相手は泣き出す。でも、あきらはきっと上級生を睨んだまま、唇を噛んでしまって口内にあふれた血を屋上の床に滴らせて、叫んだ。 「誰が泣くかよ!俺は男だ!こんな程度で泣くもんか!」 「泣けよ。オカマちゃーん」 「オカマじゃねぇ!男だっていってんだろ!!」 「ズボンおろそうぜ」 羽交い絞めにしていた三年生が、痺れを切らしてそういいだした。 その言葉に、あきらの反抗が止まる。 「どうした、怖くなってきた?」 「・・・・・・・・殺す、ぶっ殺す!!!」 本当に人を殺しそうな瞳に、あきらをいじっていた3人の三年生は言葉を一瞬なくした。 「おまえ男のあれついてねーんじゃねぇの?」 カチャカチャと、ベルトを外される。 「うぜぇ、死に腐れ、殺す!!」 ズボンをそのままおろされる。それでも、あきらは殺すと喚いていた。 その足の白さと美しさに、同じ年代のけむくじゃらなはずの足を想像していた三年生の一人が、唾をのみこんだ。 女の足のような脚線美。筋肉などほとんどついていないし、無駄な脂肪もない。 ボクサーパンツの上から、サポーターをあきらははいていた。 太ももをなでられて、ぞくりと、あきらの全身が粟立った。 きもち、悪い。 さ わ る な 「うわあああああああ」 あきらは、屋上に組み敷かれ、押し倒されていた。 またこうなるのか。 男の目が、欲望を宿す目が、自分を見つめる。 好奇心と、そして征服しようという目が。 「さわるなあああ!きえろ、きえろおおおお!!」 「うるせーな、おい口ふさげ」 「ぐ・・・・う」 口を塞がれる。全身を這い回る上級生の手が、気持ち悪い。 誰ともなしに、あきらの制服のブレザーを無理やりぬがせ、地面にしく。そこにあきらをおしつける。 ジーッと、誰かのズボンのジッパーをおろす音が、あきらに聞こえた。 「・・・・・・・・(しねよ、しんじまえ!!)!!」 声にならない声が、あきらの体中をかけめぐった。 はぁはぁと、荒い息が耳元でする。 「やべぇよこいつ・・・・まじ、綺麗・・・・」 「やるなら早くしたほうがいいぜ。おれはいくら美人でも、カマほりたくねぇな」 「俺はやりたいな、こいつと」 人間の、男なんて、みんな屑ばっかりだ。 あきらの瞳に、涙が浮かぶ。 しね、しね、しんでしまえ。 「そこまでだよ、先輩方!」 耳に飛び込んできたのは、夜流の声だった。 NEXT |