「別れ、そして留学」@







着々と夜流の留学への手続きは進んでいった。
もうすぐ、カナダに出発だ。

せめて、この心のもやもやに決着をつけようと、勇気をだして夜流は夏樹家を訪れた。
「は〜い」
あきらが出てきた。
「あ」
「あ、ごめん。怖がらせるつもりじゃないんだ。ちょっと、話いいかな?」
蓮見はいないようだった。
あきらは少し逡巡したけど、リビングルームに通してくれた。
「あなた、名前誰だったかな?」
「ああ、俺は」
「ああ、思い出した。如月夜流、だったかな?」

あきらは夜流を前みたいに怖がることはしなかった。

「なぁ。やり直さないか、あきら」
「無理だよ」
あきらはきっぱりそう言ってきた。
「でも、俺たちあんなに愛し合ってたじゃないか」
「過去のことだよ」
にこりと、微笑む。
そのあどけない微笑みが、心に痛すぎる。
「お前・・ほんとに蓮見がすきなのか?俺よりも?」
「うん。あなたより大好きだよ。俺は蓮見がいれば、他に何もいらない」
「あきら・・・・」

「何?」
「・・・・・・・・最後に、キス、していいかな」
「いいよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
「うん。これが、最後だから。キスさせて」

あきらは目を閉じた。
「ん・・・・」
触れるだけのキスを、夜流はあきらにして、二人は離れた。

急速に離れていく二人の距離。
「ねぇ、もう一回、キスして?」
「いいのか?」
「うん・・・なんだか、懐かしいから」
「これが、本当に最後、かな」
あきらは手を夜流の首にまわして、そして舌が絡むくらいのディープキスをする。
「んあっ」
腰に響くあきらの声。
このまま、あきらを押し倒してしまいたい。
まだ、夜流はあきらのことを愛していた。
ずっとずっと。出会って友達になって、それから恋人同士になってからずっと愛していた。

もう会えないかもしれない。
でも、それを夜流はあきらに伝えなかった。

ふと、カチャリと扉が開いて合鍵を持っていたのか、帰宅した蓮見と鉢合わせになった。
「っと。人の恋人に何してるのかな?」
「ごめん。これが、最後だから」
夜流は、蓮見の耳に何か耳打ちをする。
すると、蓮見は朗らかに笑って、夜流の背中を叩いた。
「がんばれよ。あっちでも、元気でな」
「ああ。あきらのこと、幸せにしてやってくれよな」
「任せろって」

そのまま、夜流は夏樹家を後にした。

 



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