「はははは・・・・おっかしー」 「蓮見?」 子猫のように甘えてくるあきらを抱き締めながら、蓮見は笑い続ける。 「記憶障害になった恋人は、ショックのあまり俺を恋人とおもうようになって、勝手に別れた。なぁ、これ俺が悪いんじゃないだろう?」 「何が悪いの?」 「俺が悪いのか、なぁあきら」 「蓮見は何も悪くないよ」 にこりと微笑むあきら。そこに、夜流に恋していたあきらの姿はない。 一度粉々にされてもう一度再生された時、恋人が蓮見になっていた。あきらの中の大切な思い出は、蓮見と作りあげたものに変わっていた。 夏樹家に、夜流の痕跡は残っていない。 全て、蓮見が捨ててしまった。 唯一残ったアルバムは、夜流の手元にある。 「蓮見、眠い。寝ていい?」 「ああ、寝ていいよ」 蓮見は、あきらを本当の恋人のように可愛がった。 何度かレイプしたあれから、体の関係はない。ショックを与えて、今の傑作なあきらの記憶がまた変わってしまったらつまらないから。 あきらは自室に戻ると、一人でベッドで眠る。 いつもは昔、夜流が一緒のベッドで眠ってくれた。 何度頼んでも、蓮見はあきらと一緒に寝ない。 蓮見はあきらを可愛がっているが、それはペットとしてだ。こんな汚いものと一緒のベッドで寝るなんてごめんだった。 「ああ、ほんとに傑作だ」 蓮見は、また笑った。 ほんとは、2ヶ月したら夜流にあきらをレイプしたことを話してまた関係をぐちゃぐちゃにしてやろうとおもっていたのに、そんなことをしなくても二人は破局を迎えた。 おまけに、夜流はカナダに留学ときた。 そろそろ、あきらを捨ててもいい頃合か。 翌日になって、蓮見は目を擦っているあきらに真実を告げてやった。 「今日、さ。夜流のやつカナダに出発するんだよ。留学だって。もう戻ってこないらしいぞ。お前ら、これでほんとにジ・エンドだな」 「夜流が、留学・・・・留学・・・・・あれ?」 ポロポロと、あきらは何故か分からないのに涙を零していた。 「蓮見?俺、なんで泣いてるんだろ・・・・」 「はははは、傑作だなぁ。もうお前は自由だよ。どこにでもいけよ。もういらない」 「捨てないで!」 捨てないで。 そう、誰かに言って、柔らかく微笑み返された記憶がある。 そうだ。 そうだ、俺は。 俺の恋人は、蓮見なんかじゃない。 なぜ、忘れていたんだろう。 俺は、ナイトと結婚するんだ。アメリカで、結婚式をあげて。 「うわああああ!!!」 あきらは叫んで、蓮見を突き飛ばすと、パジャマ姿のまま財布と携帯だけを持って、玄関を飛び出していった。 「なんだよ。思い出したのか?はは。でももう遅いっての。今頃夜流は飛行機の中だ」 「夜流、夜流、夜流!!行かないで!俺を、置いていかないで!!」 あきらは裸足で走る。 途中でタクシーを見つけて、急いで乗り込むと、関西国際空港までと頼んだ。 心臓がバクバクいって止まらない。 「そうだ、携帯!!」 あきらは、夜流の携帯にかけるけれど、留守電になっていた。 せめてもの望みを託して、メールを入れる。 「全部、思い出したから!俺を置いていかないで、夜流!!」 送信する。 ああ、神様。 どうか、夜流ともう一度あわせてください。 謝りたいんです。いっぱい、いっぱい。いっぱい傷つけて、ごめんなさい。 「ごめん、なさい・・・」 タクシーの中でボロボロ涙を流して、あきらを乗せたタクシーは関西国際空港に向かう。 NEXT |