「別れ、そして留学」B







夜流は、飛行機に乗り込んで座席に座った。
でも、やっぱり心残りだ。
「・・・・・・・・・もう一度、だけ」
夜流は飛行機の搭乗をやめて、タクシーに乗ると関西国際空港から夏樹家に向かう。

あきらと夜流、二人を乗せたタクシーは互いに場所をすれ違っていく。

渋滞に巻き込まれたあきらの乗ったタクシー。
すいている道を選んで夏樹家に向かう夜流が乗ったタクシー。
先についたのは夜流のほうだった。
荷物も何もかも放り出して、夏樹家の前までくると、チャイムを押す。
すると、あきらの変わりに蓮見が出てきた。
「なんだ。お前、飛行機にのったんじゃなかったのか」
「どうしてもあきらにあいたくて、キャンセルした。もう一度、あきらと話をさせてくれ!」
「いないよ」
「え?」
蓮見は狂ったように笑いだした。

「何、お前ほんとにあきらの恋人が俺だって信じてたんだ。おっかしー」
「・・・・蓮見?」
「あきらはなぁ。俺がレイプした時に頭が狂ったんだよ。んで、お前のことと俺のことがごっちゃになって、お前のことを忘れて恋人が俺になってたんだ。俺も傑作だったよ。それから、あきらはお前のこと思い出したのか、血相かえて出て行ったぜ」
「レイ・・・プ?」
「だからさぁ。お前も頭悪いなぁ。俺は、お前とあきらの仲を裂くために全て仕組んだんだよ。あきらをレイプして、お前と別れなかったらお前を殺すって脅して」
「蓮見・・・・お前えええ!!」
夜流は、蓮見に殴りかかった。
夜流は喧嘩に強い。
いきなり殴られて、蓮見は玄関口で後ろに倒れた。
「このお」
鼻血を流しながら、殴りかかってくる蓮見の拳をよけて、何度も蓮見を殴った。

「ちくしょおおお!!」

わき腹に灼熱を感じた。
「ははは・・・ざまぁみろ・・・・」
「蓮見・・・てめぇ・・・あきら・・・・」
サバイバルナイフで、わき腹を刺されて夜流は、膝をつく。
その時、携帯を落とした。
メールが届いているのを確認して、夜流は震える手で中身を開く。
(全部、思い出したから!俺を置いていかないで、夜流!!)
「あきら・・・・」
出血で、視界がぼやけていく。

「ひっ」
その時、蓮見は自分が人を刺したことに気づき、顔を真っ青にした。
「びょ、病院」
急いで救急車を呼ぶ。

蓮見は逮捕され、そして重症患者として夜流は緊急病院に運び込まれることとなった。
「あきら・・・・今、いくから・・・・」
その言葉だけを、残して完全に夜流は意識を失った。

一方、渋滞に巻き込まれたタクシーから、あきらは裸足で金を適当にはらって飛び降りると、足の爪が剥がれて血まみれになるのにの気づかずに、とにかく走って走って。
関西国際空港から出たであろう飛行機が、空を飛んでいくのを見上げて、地面に膝をついた。
「俺・・・・やだよ。今、いくから!!」
ふらつく足で、あきらは走る。

キキィー。
ブレーキの音が、あきらの耳に聞こえた。
急に右折してきた軽トラックに、軽々と跳ね飛ばされるあきらの体。
どさりと、地面に落ちて血だまりが地面に広がっていく。
「事故だ!救急車を!!」
たくさんの人があきらの元にかけつけて、応急処置を施そうとする人まで現れた。

「夜流・・・・今、行くよ」
あきらは、血まみれになって、空をその目に焼き付けて、静かに瞼を閉じた。

あきらと夜流は、同じ緊急病院に運び込まれた。
二人とも意識不明の重体であった。
医師とナースたちが、戦場のように二人の応急処置を施していく。
 



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