「凍りついた時間」@







救急病院は常に戦場のようである。
次々と運び込まれてくる緊急患者が、同じ治療室に一時的に運び込まれることもある。
他に交通事故があったせいで、偶然にも、あきらと夜流は同じ処置室に運び込まれた。

二人とも人工呼吸器をつけられ、輸血がされて慌しく傷の手当てがされていく。

そのとき、時間が凍りついた。

「あれ・・・・俺がいる」
夜流は、自分の体を見下ろしていた。
「ここに俺もいるよ、夜流」
「え?」
振り返ると、そこには天使のようなあきらが佇んでいた。
全身が光っている。
「あきら?メール読んだから!やり直そう!」
「うん。やり直そ・・・・」
あきらはポロポロ涙を零して、夜流に抱きついた。
「夜流はお日様みたい。だから、ね。俺の分の命もあげるから、生きてね」
「何いってるんだよ、あきら!お前も生き残るんだ」
下をみると、たくさんの医師に囲まれ、心臓マッサージを受けるあきらの姿があった。

「だめです、反応ありません」
「電気ショックだ!!」
医師とナースが慌しくあきらの命をもう一度ふきかえそうと、懸命な処置をしている。

「あきら・・・・嫌だ、俺はいやだ!お前も一緒に生きて、アメリカで結婚式あげてマイホーム建てて住むんだ・・・・そうだろう?」
「うん、そうだね」
あきらを包む光が、一段と大きくなり、そしてあきらは純白の翼を背中に生やした。
「あきらぁ!!」
夜流は泣き叫んだ。人生で一番泣きまくった瞬間だ。
「いやだあ、こんなの俺はいやだあああ!!」
あきらを抱き締めて、夜流は嗚咽を漏らす。

「俺は、いつでも、夜流の側にいるよ。忘れないで。たくさんの思い出を、ありがとう」
「あきら!!」
「俺を愛してくれて、ありがとう。夜流。あきらは、幸せでした」
涙を零しながら、あきらは微笑んだ。

「だめです!もう心肺停止から15分以上経過!」
「残念だが・・・・こっちの患者も危ない、みな、こっちの患者の措置を!」
下を見ると、幸せそうに微笑んでいるあきらがいた。
「うう、まだこんなに若いのに」
ナースの一人が、涙を流して白いハンカチをあきらの顔にかける。

「嘘だ。あきら、あきら!!」
「呼んでる・・・・」
「ダメだ、いくなあきら!!」

「夜流。俺は、本当に幸せ、だったから。もう、行かなきゃ」
「あきらーーー!!」
あきらは、白い翼を羽ばたかせて、透明な階段を登っていく。
「この階段、空に通じているんだって。空を見上げれば、そこにいつでも俺はいるからね?夜流。俺だけのナイト」
「いくなよ・・・俺だけの王子様」
「俺の分まで、生きてね。ばいばい・・・・」

「あきら!!」
目が覚めた時、そこは病室だった。
両親は、目覚めた夜流に涙を零す。
「なぁ、父さん母さん、あきらは?」
「あきら君は・・・・」
「嘘だろ、なぁ?」
やがて、瑞希が現れて、泣いてまだ動けない夜流の手を握る。
「夜流くん。これ、あの子の形見なの。受け取って、あげて・・・・」
あきらが一番大切にしていた、姉のマナからもらったという黄色のリボンを、夜流は握り締めて絶叫した。

「こんなの嫌だあああああ!!!
 



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