「凍りついた時間」A







夜流は、あきらの遺体と面会することもできなかった。
重症のせいで、病室から出ることは禁止されていた。
やがて、あきらの通夜とお葬式が終わり、瑞希が夜流の病室に訪れた。遺骨をもって。

「あの子のネックレス。形見に、もらっていいかしら?」
瑞希は、あきらのネックレスを首にかけて、寂しそうに目線を落とす。遺骨を抱き締めて、嗚咽をもらしはじめた。
「マナだけでなく、あきらまで!あああああ、いやあああああ!私の大切な子供たち!どうしてママより早くいってしまうのおおおお!!」
「瑞希さん・・・」
やがて、瑞希は涙をハンカチでふきとると、きらりと光るリングを夜流に渡した。
「これは、あの子とのペアリングね。あなたが持っておいて」
あきらが最後まで指にはめていた、夜流とお揃いのペアリングを受け取る。
何度も涙を流して叫び続ける瑞希の元に医者が現れ、彼女は鎮静剤の注射を受けて、ソファーに横になった。
「あきら・・・愛しているわ。こんなママで、ごめんなさい。あきら、あきら・・・・」
やがて、鎮静剤がきいて、瑞希は眠りに入った。

「あきら・・・ごめんな。やっと、会えたな」
夜流は、遺骨を抱き締めて、涙を流した。
「軽くなっちまったなぁ、あきら。もう俺に微笑んでも、語りかけてもくれないんだな」
窓から見える空は、昔二人でよく見上げた色と同じ蒼だ。
「もう、一緒に空を見上げることもできないんだな」
ペアリングを大切に握り締めて、夜流は静かに泣いた。
「お前と・・・アメリカで、結婚式あげて・・・・マイホーム建てて一緒に住んで・・・幸せにするって・・・俺は」
遺骨をぎゅっと抱き締める。
「俺は・・・・お前がいなくなったのに、でもまたお前を愛しているんだ。この愛をどうすればいいんだ、教えてくれ、あきら・・・・」
あきらは、もう答えてもくれない。

ふと、ナイト、と呼ばれた気がして夜流は病室を見回す。

「あきら、いるのか?いるなら答えてくれ」
でも、シンとした空気だけがそこにあった。
「あきら・・・俺が、もっと早く気づいていれば。お前を失うことなんて、なかったのに。俺はばかだ。最低のオオバカヤロウだ」

そんなこと、ないよ。

確かに、声が聞こえた。
「あきら!?」
気づくと、夜流は光を放つあきらの体に抱き締められていた。
「俺、夜流と出会えて凄く幸せだった。俺、こんな結果になったけど、でも夜流と出会えて良かった」
「あきら・・・」
涙を流す夜流の頬にキスを落とすあきら。
「俺は、いつでも夜流の側にいるから。いつでも、夜流を空から見守っているよ。夜流の心に、俺はいつでもいるから」

緊急病院に運び込まれた時のように、あきらの体が光に包まれて消えていく。

「あきら。俺は、お前と結婚するよ」
「うん。結婚しよう?アメリカでね」
あきらはクスリと笑って、白い翼を羽ばたかせて、空に昇っていった。
残された夜流は、まだ涙を零して、あきらの遺骨を抱き締める。

「あきら。約束、だから。結婚しよう。アメリカで」
夜流は繰り返す。
あきらと、約束したから。
結婚式を挙げよう。アメリカで。
うん。
あきらと、一緒に。
 



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