「凍りついた時間」B







蓮見健太郎は逮捕され、少年院ではなく、19であったことから普通の刑務所いきが決定した。
罪状は殺人未遂及びに、故夏樹あきらに対する暴行行為と恐喝。

空は、よく晴れて青かった。
これが日本でみる最後の空になる。

如月夜流は、日本で成人を迎えた。
そして、両親はもう反対はしなかった。正式に、一人きりになってしまった夏樹瑞希の養子になり、名前をかえた。
今の名前は夏樹夜流だ。
本当の両親ともちょくちょく連絡はとっている。

「母さん、用意できた?」
「ええ」
今日は、夏樹家の二人がカナダに飛び立つ日だ。
友人のマサキ、哲、透も駆けつけてくれた。
「カナダにいっても、元気でな」
「ああ。でも、最初の四年間はアメリアだけどな」

夜流は前に通っていた大学を退学し、アメリアでハーバード大学を受験して見事に受かった。
卒業するまでの四年間は、瑞希と一緒にアメリカで過ごすことが決まっている。

車を夜流が運転し、荷物とそして大切な母である瑞希と、一番大切なあきらの遺骨を乗せて、そのまま関西国際空港につくと、飛行機に乗り込んだ。
二人は、三人の友人と、そして夜流の本当の両親に見守られて日本を発った。
「元気でな・・・あきらのことも、俺たちはずっと忘れないから」
あきらの死は、友人たちの心にも暗い傷となって陰を落としいるけれど、一番辛いのは夜流だ。

半年にも及ぶ、夜流の入院。退院まで時間がかかった。
そこまで傷が深かったのだ。命が助かったのは奇跡とまで言われた。
きっと、あきらが助けてくれたんだ。
夜流はそう信じている。
あきらまで失い、臥せがちになった瑞希を支えたのは夜流だった。

そして、二人は少し大きめの家をアメリカに構え、そこに住み始めた。
国籍も日本からアメリカのものにかえた。
夜流はハーバード大学に通いなはがら、仕事で世界中を飛び回る瑞希の補佐もしている。将来は、瑞希の秘所になるつもりだった。
夏樹コンツェルンの最有力後継者候補になってはいたが、夜流は夏樹家を継ぐつもりはなかった。あくまで、瑞希を支えるためであって、そしてあきらと同じ苗字をもちたいその心からだった。

前期の授業が終わり、夜流は首席をとった。その祝いに、自宅でささやかなパーティーが開かれた。
夜流の友人もたくさん訪れた。
アルコールに火照った体で星が浮かぶ空を見上げて、夜流はあきらに話しかける。
「なぁ、あきら。空に、いるんだろう?また、墓参りにいくからな」
星は瞬く。
「それから、約束の・・・ちゃんと、予約したから」
空の向こう側で、あきらが微笑んだ気がした。

 



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