プロローグ




月を仰いでいた本編「月明かりの下で」

先にこちらを読むと世界観が分かりやすいです。



予備校帰りの道で、不良にからまれた。
最悪だ。

「おいおい、姉ちゃん金くれよ」

金髪に染め上げたピアスいっぱいの男に、アフロ頭とか・・・見てるだけで笑えてくる。

「ぷっ」

あ、いかん。笑ってしまった。

「おい、今笑っただろてめぇ?」

ちなみに、俺も髪を染めている。真っ白に。んで、前髪の二箇所だけオレンジのメッシュを入れてる。これでもわりとファッションには気を使う・・・ほうでもないか。適当。でも髪型だけはきちんとしたい。

俺はださい不良にむかって言葉を投げる。

「チンカス〜」

思いっきりバカにした口調で。

「あんだとてめぇ、犯されたいのか」

はい、案の定女に間違われてますね。俺、昔から女顔の上に華奢な体躯のせいで、学校でも女に間違われる。学校、男子校なのにな。
ありえねぇ。なんで男子校で女に間違われるんだよ。

「俺男だから。レンカ、参りマース」

まるでこれから電車が出発しますよ〜って勢いで、荷物を置くと、構えた。足を。
そのまま蹴りを不良共に入れてやる。金髪の男は一撃で伸びた。あとはアフロと茶髪。茶髪はすぐに逃げ出した。

「暴力反対!」

アフロがなんか言ってるけど。蹴りの姿勢をやめたとき、パンチで殴りかかってきた。それを避けて股間に蹴りを入れると、アフロはなよなよと股間を庇ってその場に蹲る。

「ああん、股間はだめえええ」

痛そうだな。俺がしたんだけどさ。俺は地面に置いてあった荷物をもって、また歩きだす。
前髪が長くなってきたので邪魔なので、姉からもらったかわいい花のヘアピンで留めなおす。
あ〜腹減った。

白髪にグレーの瞳。俺、ハーフなんだ。もともと髪の色は茶色。目立つから染めなさいと母親に言われて、お金を渡されて思い切って白に染めてみたら往復ピンタされた。母さん最強だよな。
父さんはイギリス人で、今はイギリスで仕事にで3年間の海外赴任だ。といっても、もとから父さんの故郷はイギリスなので地元に戻ったことになるけどさ。

俺の名前は藤原レンカ。レンカはカタカナ。なんか俺の一族って、行方不明になる若い子が多くて、母さんはいつも心配している。姉さんは無事成人したので問題ないけど、成人するまでの特に15〜18の年齢の子が神隠しにあったようにいなくなるんだ。
俺は今年で16。
従兄弟のマリカ姉ちゃんもいなくなったし、一時は俺が好きなカリンちゃんもいなくなった。カリンちゃんはなんか高校入学と同時に、転校生だというやったら美人な人とくっついて、それから数ヶ月いなくなった。

カリンちゃんに思い切って告白してみたんだけどそっこーで振られた。
いつも側にいる怖いくらいに綺麗な人は外人で、留学にきてるらしいけど、この世界の色彩を帯びていない。蒼銀の長い髪に水色の瞳。どう見たって、髪は染めてるし、それに瞳はカラーコンタクトだ。名前はユリエスというらしい。んで、なぜかユリエスは留年してカリンちゃんと一緒に卒業して結婚した後、この世界からまたいなくなった。
時折帰ってくるけれど、ほんとにいつもはどこにいるんだろう?

ある日、そのやったら美人な人なユリエスに、サーラの世界にいってみないかとかいわれた。サーラってどこよ?そんな国しらねぇよと思いつつも、うんとか頷いてしまった俺。
そして、俺の人生が終わった。
終わったよ俺。うんとか言わなきゃ良かった。

ああ、今日も綺麗に月が耀いている。新円を描く月光を浴びながら、俺は黒猫が目の前を横切るのにああ、時間かと思った。

異世界サーラに続く世界をあける黒猫。名前はアルザというらしい。よくわからないけど、カリンちゃんとユリエスが飼っている黒猫だ。
でも、二人の家はこの世界にはないし、それをカリンちゃんの両親が周囲が疑問に思ったことはない。思ったのは俺だけ。
ユリエスいわく、魔法の洗脳が通じないらしい。
だからこそ、サーラの地に適用できる人物であると語ったあの時のユリエスは、人間じゃなかった。瞳が真紅に変わって、黒猫を抱いていた。

「にゃお〜ん」

「待てよ。アルザ!」

俺は黒猫を追いかける。金色の瞳で俺を振り返ると、黒猫はタタタタっと走っていく。
俺はただひたすら追いかけた。そして、月光に包まれ、そこで俺の思考はブラックアウトした。

気づくと、何もない白い空間に倒れていた。そこに、蒼銀のフェンリル、カッシーニャが座っていた。サーラの地を滅ぼすとされていた、カッシーニャは、かつてユリエスの中に潜んでいた。ユリエスはリトリア王家の第2王子であり、そしてカッシーニャはリトリア王家の血を引くものの中にいつも宿って潜んでいた。人はその呪いを受けた人物を銀のメシアと読んだ。
やがてカッシーニャは、サーラの世界に召還されたカリンちゃんが旅の末に滅ぼした。闇のドラゴン、ラグドエルからさらに先、最終的に光のドラゴンレイシャとなったカリンちゃんは、歴史を狂わせ、同じようなことを繰り返させていた女神リトリスも殺して、繰り返される狂った歴史に終止符を打った。

1200年前、カッシーニャを滅ぼしたとされる、黒髪黒目の聖女リトリス。そこからリトリス王家がはじまった。
この1200年の間に、カリンちゃんを含めて4人の、黒髪黒目の、俺の一族藤原の血を引く少年少女がサーラに召還され、竜の子となってたくさんの精霊ドラゴンを従えて、カッシーニャを滅ぼした。
滅ぼすたびにカッシーニャはまた蘇り、藤原の少年少女の誰かが竜の子として召還され、そして銀のメシアと恋に落ちながら、カッシーニャを殺すために、銀のメシア、つまりは恋人を殺した。
聖戦といわれる、恋人同士でありながら愛し合っていながら、カッシーニャとなった銀のメシアと竜の子が闘うという悲劇はカリンちゃんの代まで続き。

そして、カリンちゃんは運命にうちかち、ユリエスもカッシーニャの意識に飲まれこむことなく聖戦の末に生き残った。

ユリエスは、まだカッシーニャを宿していた頃の名残か、時折瞳が水色から真紅になることがある。カッシーニャはもうサーラの世界にはいない。何度滅ぼしても蘇る伝説のドラゴン、蒼銀のフェンリルカッシーニャは、カリンちゃんに滅ぼされてその魂は天界に昇ったという。
これは、この世界の記憶だ。
追憶のカッシーニャ。

カッシーニャは蒼銀の毛並みを振るわせると俺に近づいて、俺を乗せてくれた。
そして、俺は3つの月に向かってひたすらカッシーニャと一緒に走り続けた。

そして、サーラの世界に入ると、俺は放り出されて、そのまま空間転移した。

「あいててててて」

俺は目を開けると、綺麗な薔薇園の中庭にねっころがっていた。丹精こめて育てられたであろう薔薇の花をたくさん押しつぶしている。

「いってー」

棘が手に刺さって、俺は滲んでいく血を口で吸い取ると舐めた。

「あー。あれ?なんだここ」

いつもの、カリンちゃんとユリエスの家じゃない。黒猫のアルザの姿を探すが、いなかった。こんな綺麗な庭、王宮かどっかの金持ちな貴族か。いつもはアルザがサーラへの扉を開いてくれて、身篭って元の世界に戻るのには危険な状態のカリンちゃんの話し相手のためにこの世界にくるんだけど。
肝心のカリンちゃんの家とかけ離れたどっかの中庭。カリンちゃんの住んでる家はユリエスの家でもあって、その隣には黒猫のアルザの本体と、マリアードとかいうどっかの帝国の姫君の家がある。

何も、話し相手に俺がいなくてもいいだろうと思うんだけど、藤原の血の力がないと、安定して出産できないかもしれないとかで。

かつて3回、いやカリンちゃんを入れて4回カッシーニャを滅ぼしたのは、みんな藤原一族。そう、行方不明になった藤原家の15〜18歳の少年少女たちだ。
マリカ姉ちゃんも、その他に行方不明になった二人の少年も俺の従兄弟。つい5年前まではみんなで笑って遊んでいたのに。

彼らは時空をこえて召還され、何百年も前のこのサーラの地にきて、銀のメシア、蒼銀のカッシーニャを宿す者と恋をして、そしてその最後に自分でカッシーニャごと愛しい人を殺し、自害したという。
その話を聞いたとき、信じられなかった。でも、もうみんな死んだとカリンちゃんも語った。

黒き髪に黒き目を持つ者は、この世界では神の化身。竜の子。召還されれば、いろんな神殿に封印されている精霊ドラゴンと契約する旅をして、その旅の果てに銀のメシアを殺さなければいけない。
でも、藤原の少年少女たちは、カリンちゃんやマリカお姉ちゃんも含めて、みんな銀のメシアに恋をして、そしてカリンちゃん以外は愛する人を殺した哀しみのあまりに自害した。
その歴史が繰り返されることはもうない。操っていた女神リトリスはいなくなったのだから。死ぬはずであった銀のメシアであったユリエスは生き残った。繰り返される狂った歴史は終わった。

ユリエスにいきなり異世界に連れてこられて、魔法とかモンスターとか見せられて・・・これって夢じゃねぇの?って何度も思ったけど、真実だった。

カリンちゃんもユリエスも嘘をいうような人じゃない。俺はその言葉を信じた。
カリンちゃんはユリエスの子供を身篭ったことにより、この世界で一番権力をもつイルアルド帝国の皇帝に睨まれているのだそうだ。
黒き聖女と呼ばれるカリンちゃんと、銀のメシアの呪いから解放されたユリエスの間の子は女の子とすでに占いででている。ユリエスはリトリア王家の第2王子。
聖女を妻にできないなら、聖女と伝統あるリトリア王家の血を引く、二人の娘を妻に迎えたいそうなのだ。

イルアルド帝国の皇帝は、女好きとして有名で、そんな男の元に愛しい始めての子供を嫁にやりたくない。その一心で、ユリエスは俺にイルアルド帝国の皇帝を宥めて、なんとか自分たちの娘を諦めて欲しいそうで。それが俺を連れてきた本当の理由。

もう、藤原家に15〜18なのは俺しか残っていない。
黒髪黒目であれば、竜の子になれるだろうに、俺はもともとハーフで茶色の髪にグレーの瞳ときた。ユリエスは無駄な権力争いを避けたいらしいが。俺っていいように利用されてる気が・・・しないでもない。

まぁ、カリンちゃんのためならと、何度かイルアルド帝国へ使者となって、俺がこの地に子供を作るとか適当に嘘こいてみたんだけどさ。ようは、欲しいのは聖女、聖人である藤原一族の血であって。何もカリンちゃんやカリンちゃんとユリエスの間の子供じゃなくてもいいらしい。

豚のようにこえた皇帝は、俺の言葉にかなり興味をもったようで。できれば黒髪黒目の娘がいいとかかってなこといってたなぁ。まぁたくさん子供こさえたら黒髪黒目の子だって生まれるだろうけど。

でも、こんな豚にお嫁に行かせたくないと思った。

「豚!!」

皇帝の目の前でそう言ってしまったあの時。謁見の間にいた者中が凍りついたっけ。いやな、俺に注ぐ視線がねちねちしててねばっこくて。きくと、皇帝は男も抱くらしい。

うっは。俺もしかしてやばい?とか思って

俺は豚な皇帝から使者としての勤めを終えるとそそくさと逃げ出して元の世界に帰った。
それから2ヶ月。
またあの豚を宥めるのかぁと思ったけど、ここどこ?
俺はだれ?じゃねええええ!!

蒼穹の空を見上げて、俺は中庭で薔薇を無残な姿にして、寝転がっていた。起き上がる。水の匂いを含んだ風が吹いてきた。
近くに噴水でもあるのだろうか。

「あー。俺の人生ついてねぇ」
 





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