レンカ、不安になる







次の日、起きると横にユリシャはいなかった。宮殿に帰ったのだろう。
そう思っていると、ユリシャが部屋の中に入ってきた。

「レンカ、気分はどうだ?」

「うっせー。不機嫌じゃーーー」

「寵姫のお前はいつも不機嫌そうだな」

ユリシャは、笑ってテーブルに置いてあったフルーツをもった籠からリンゴを取り出すと、そのままかじりだす。この皇帝、見かけは美しいし仕草も洗練されているけど、二人きりになるとどうも雰囲気が変わる。

俺はベッドにつっぷしたまま、これからどうなるのかだけを考えていた。元の世界に戻れない。どうしようもないじゃないか。

「なぁ、俺これからどうなるんだ?」

「寵姫として後宮で私と生活するだけだ」

元の世界に戻りてぇ。

はぁ。

「りんご食べるか?」

「ああ、う・・・んう!?」

口の中に、ユリシャの舌とリンゴの味が広がった。すでに咀嚼されていたりんごを口うつしでもらい、レンカはユリシャを押し返した。

「このエロ皇帝!」

「ふふふ。私をそんな風に詰るのはお前くらいだ」

「いくらでも言ってやる。エロ魔人が!」

「レンカ」

「ぼけええ!!」

俺はユリシャに向かって蹴りを放つが、ユリシャは平気でそれをかわす。いつの間に脱がされたのか、ズボンがなくて上の衣服だけだった。といっても、腰まで丈があるので平気かと思いきや、スリットがかなり際どい位置まで入っていた。

ユリシャはレンカの白い足を見て、一言。

「誘っているのか?」

「あほか!」

俺はがっくりとうなだれた。フルーツジュースが入ったグラスをユリシャからもらい、喉がかわいていたのでそれを全部飲み干した。

「レンカはドレスはいらないのか?」

「いるかよ。俺は男だ。どうせなら男の衣服作ってくれ。貴公子みたいなさぁ」

「却下」

即答かよ!

「レンカには似合わない。今のようなリトリア風の美しい衣装をもっと作らせよう」

「勝手にしろよ」

ユリシャは皇帝としての責務を果たすために宮殿に帰っていった。おれは数日、与えられた自分の部屋に閉じこもっていたけど、することもないし宮殿で剣の稽古をつけにもらいにいっていた。

普通の兵士とまじって、寵姫が剣の練習などもってのほかだけど、ユリシャの許可が与えられているので、俺は同じくらいの年の少年たちにまざって剣をふるう。

「レンカ様、右に隙ができやすいです」

「あーうん」

剣の師範に、何度呼び捨てでいいといっても、拒否された。皇后に継ぐ身分の寵姫を呼び捨てになどできない。

キン、カキン、キィン。

真剣での勝負。一歩間違えると怪我を追うが、いつも剣の練習の時には治癒魔法を使えるものがいるので、万が一怪我をおってしまっても安心できる。

「レンカ様。この剣はどうでしょう。最後の銀のメシア、ユリエス様が使っていた聖剣シルエドでございます」

「聖剣?」

「はい。シルエドという名の意識をもつ変わった剣です。皇帝陛下があなたへと」

「へー。面白そう」

俺はその剣を受け取った。なんでも、ユリシャからのプレゼントらしい。

もともとはユリエスの血筋の者がもつのだが、ユリシャには世界中のあらゆる聖剣魔剣神剣などがあるため、シルエドを俺にくれるらしい。

「ふあ〜。朝ですね。ええと、お名前は?」

「ぬおおおしゃべった!!」

「はい。シルエドという意識をもっております」

「俺、レンカ」

「ほうほう。ユリシャ様からわたくしを渡されるなんて大事にされてるんですねー」

「うっせ」

俺は剣がほざく言葉を無視して、ひたすら剣を振るった。

今日の稽古はそこで終わり。とりあえず、シルエドをぶんぶん振り回すなんて才能があると師範に認められた。シルエドは扱いにくく、剣の腕がないと振り回すこともできないらしい。

「おー。んじゃ帰るかシルエド!」

「はい」

ちょうどよかった。アルザはいつ現れるかわかんないし、侍女とは話しにくいし。話し相手が欲しかったとこなんだ。剣に宿った人格だけど、言葉使いはいいし、会話相手にもなってくれそうだ。



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