レンカ、襲われる







宮殿から後宮への帰り道。供を拒否して一人で歩いていた。

「んう!?」

いきなり後ろから羽交い絞めにされて、俺は地面に押し倒された。

「寵姫レンカ、悪く思うなよ。お前を汚す」

数人の兵士らしい男に地面に押し倒されて、そのまま服を引き裂かれた。犯される。そう思ったとき、俺は風の魔法で兵士たちを吹き飛ばしていた。

「く、詠唱なしの魔法が使えるというのは本当か。気絶させろ!」

鳩尾に拳を食らって、俺は激しくせきこんだ。

こんのやろー。感情が高ぶるのが自分でも分かる。

その時のレンカの瞳は真紅になっていた。

「ひ・・・真紅の瞳!カッシーニャの呪いだああ!!」

かつて、この世界に存在したカッシーニャを宿す銀のメシアは、皆感情が高ぶると瞳が真紅になった。黒い瞳と同じように、赤い瞳をもつ人間もいない。

真紅の瞳はカッシーニャの瞳の色だ。

逃げる兵士を後ろから聖剣シルエドで切り捨てる。自分でも思いもかけないほど体が軽い。逃げようとする兵士を追いかけ、剣で刺し殺した。

身を守るために殺せ!そう、頭の中でシグナルがなり続けていた。

そのまま残ったのは主犯者の男。そいつは命乞いを始めた。

「イヴァル寵姫に命令されたんだ!命だけは助けてくれ!!」

「知るかよ」

俺は血に飢えているのが自分でも分かった。俺はシルエドで男の首を刎ね飛ばしていた。

鮮血に衣服が汚れた。吹き出しつづける噴水のような返り血を浴びて、俺は唇を舐めた。

血の匂い。心地いい。

「いけません、レンカ様。落ち着いて!」

剣、シルエドの声で我に返る。

「え・・・あ。これ、俺がしたのか?」

「はい・・・」

剣シルエドは、落ち着いた声でレンカを諭す。

「心を落ち着かせてください」

「あー。うん。・・・・これどうしよ?」

男の生首を足で転がす。元の世界にいた自分なら、考えることもでなかった行動をとっていた。

瞳はまだ真紅のままだ。

俺は、首謀者の男の髪を掴んでそのまま、真っ赤にぬれた衣服と鮮血に染まった体で後宮に戻る。俺の姿を見た姫たちや侍女はこぞって逃げ出した。

「ひいい、人殺しいいい!!」

「うるせーなぁ」

俺はイヴァル寵姫の部屋にくると、ノックした。

「なんの用・・・・・きゃあああああ!!」

イヴァル寵姫は、俺を見て化け物をみるように震え、その場でガタガタと震えだした。そこに、男の生首を放り投げる。

「ほらよ。お前の子分なんだろ。残念だけど、おれ強いから。瞳真紅だろ。カッシーニャになるかもよ?」

伝説の太陽の精霊ドラゴン、今は滅びたはずのカッシーニャ。その瞳は真紅であった。ユリエスはカッシーニャを血に呪いとして潜ませていたが、感情が高ぶると俺のように瞳は真紅になる。

真紅の血の瞳は、呪いの証。

「あ、あ、化け物!!!!」

ガタガタと震えるイヴァル姫やらその侍女をあざ笑うかのように見てから、俺は自分の部屋に戻った。こびりついた血の匂いが酷い。

すぐに侍女が俺を薔薇風呂に入れやがった。

「ちっくしょ・・・・人殺した」

薔薇風呂に浸かりながら、そう絶望でもない、なんというのか空虚な想いに囚われる。

人を始めて殺した。自分の手で。

薔薇風呂に入っていると、俺が男に襲われてそいつを殺害したことが皇帝のユリシャまで伝わって、ユリシャはノックもなしにバスルームに入ってきた。

「なんだよ」

「無事でよかった」

ユリシャに抱き締められた。ユリシャは金木犀の香りがした。それはリトリアの血をひく血の濃い者の特徴でもあった。

「ふあ・・・ん」

壁においやられて、そのまま激しいキスを受けた。

やべ。頭がぼーっとしてきた。

「風呂入ってるんだから・・・出てけよ」

「首謀者はイヴァルと聞いたが?」

「なんかの間違いだろ」

「そうか。お前がそういうのなら処罰はなしにする」

正直、お姫さんが処刑されるとか、後味悪いし。俺を襲った兵士は俺が自分で殺したし。

あー。

ほんと、この世界にきてから俺の人生滅茶苦茶だ。人を殺しちまうし、他の後宮の姫たちからは嫌がらせばっかりさせられるし。

これが消極的な性格だったら、きっとユリシャの保護なしじゃないとろくに外にもいけないだろうな。

「ユリシャ。俺の今の目の色、何色?」

「薄いピンクがかった銀だな。美しい色だ」

瞳が真紅に変わったことも、すでにユリシャには伝わっているようだったが。

「真紅でも綺麗だっていえる?」

「いえる。お前の瞳なら」

「あっそ。邪魔だから出てけ」

「愛してるよレンカ」

「んあ・・・」

舌が絡むくらいのキスをされてから、ユリシャは去っていった。

男に愛してるとか言われても。複雑なんですけど。喜ぶこともできないし。皇帝だし、無碍にもできない。

ああ、俺の人生どーなるんだろ?

 



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