レンカ、神の子?







「先にやってきたのはあんた」

手をひらひらと振って、レンカは去ろうとした。カレナ皇后が、レンカの和服を掴む。

唇がわなないていた。

「うぜぇよ」

レンカは、シルフを脳裏に描いた。

レンカの体から風の精霊ドラゴン、シルフが現れた。

(この者は嫌がっておる。離しておやり)

「な、精霊ドラゴン!?」

カレナ皇后は、背筋を伸ばしてシルフを仰ぐと、その美しい神秘的な姿に酔いそうになっている自分に気づき、我に返った。
そして、打ちひしがれた。

精霊ドラゴンを操るとは、即ち竜の子。神の子である。

会場の者も、皆驚いた。風の精霊ドラゴンシルフが、レンカを守るように半透明な体をレンカに巻きつけて、そしてレンカの周囲に僅かな風がそよぐ。

「カレナ皇后だっけ?俺、あんたに興味ないから」

誰もが傅く自分に、こんな無礼な言葉を投げるレンカ。でも、その存在は黒き神の子と同じだというのか。

「レンカ?精霊ドラゴンを操れるのか?契約は?」

パーティーの主役である皇后を放置して、ユリシャがレンカを抱き上げた。

「あ〜?契約?知らない。いろんな精霊のドラゴンと話できるし」

「契約なしで、従えているのか?」

「従えているっていうか。魔法とおんなじ。でてきてくれ〜って思ったら出てくるみたいな?」

ユリシャは、笑い出した。

「ははははは!なんというおかしなことか!黒き聖女や聖者でさえ、どの者も契約なしでは精霊ドラゴンの力を用いることはできなかったのに。お前は、もしかして生まれつきの神の子かもしれんな」

「つかおろせって」

「皆の者、パーティーを存分に楽しんでくれ」

「陛下!?何処にいかれますの?」

「疲れたので、レンカの部屋にいく」

「な!!」

毎年、皇后の誕生日にはいつも側にいてくれた皇帝が、離れていく。

「陛下ーーー!!」

カレナ皇后は泣くことはなかったが、その場にいた後宮のどの姫もレンカに嫉妬の炎を燃やした。

皇后さえないがしろにさせる存在、レンカ。

許すまい。

皇后は、寵姫たち三人に慰められて、そのままパーティーを続けた。

これは、自分の誕生パーティーだ。無様な場面は見せられない。

まさか、ばれているのだろうか?皇太子である娘とその弟の第一皇子が、ユリシャの子でないということが。カレナ皇后は、従兄弟の皇族の一人の男性と通じていた。

皇太子も第一皇子も、色彩がユリシャのものを受け継いでいない。

普通なら、ユリシャの子であれば水色の瞳に蒼銀の髪の色彩を受け継ぐはずである。

なのに、うまれてきた双子の色彩は、金色の髪に翠の瞳。皇族に多い色だ。

「ウウウ・・・」

パーティーが終わって、カレナ皇后は悔しさのあまり泣き臥せった。

姦通罪は処刑とまでいかないが、身分の全てを剥奪される。

「レンカ」

ぎりっと、カレナ皇后はその名を口にして、嫉妬の炎に身を狂わせた。


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