レンカがユリシャに誘われて、宮殿のユリシャの私室にいった後だった。 それを確かめてから、誰かがレンカの部屋に浸入した。 レンカの部屋の衣服や寝台をめちゃめちゃにして、床には牛糞を撒き散らす。 そして、TVとゲーム機は見慣れないもので怖かったのでそのままにしたけど、レンカお気に入りの和服を引き裂いて、ユリシャから貰った映像が出る鏡を叩き割った。 その人物は満足して、悪態をついた。 「陛下を独り占めするからよ!いい気味!」 レンカは夜まで戻ってこなかった。 いろいろとこの国の本を読んでいたのだ。勉強する気なんてなかったけど、ちょっとだけ興味が湧いたらしい。 ユリシャに歴史を教えてもらっていた。 「ん?なんだ」 後宮に戻ってきたレンカは一人だった。そして、部屋の異変に気づくと、レンカは呆然とした。 荒らされまくった室内。衣服などは全部引き裂かれ、お気に入りの和服も無残だ。寝台やカウチ、ソファーなども刃物でめちゃくちゃにされている。 おまけに、床やベッドには牛糞らしきものが撒き散らされて悪臭を放っていた。 かろうじで、TVとゲーム機、ソフトなどは無事だったけど。 TVの隣においておいた、大切にしようと思っていた画像のでる鏡は粉々に叩き割られていた。 きっと、ユリシャは苦労して手に入れてくれたんだろうと思う。侍女に聞いた話だけど、ああいう画像を映す鏡は貴重で、本来なら博物館で秘蔵されているものだ。 金をつまれても、博物館の秘蔵クラスのものはたとえ皇帝であろうともどうにもできない。 多分、ユリシャは何度も頼み込んだんだ。俺なんかのために。 愛する父と母を、俺に見せたいために。 一気に頭に血が上った。 「ウンディーネ。ここの過去の映像を写しだせ」 水の精霊ドラゴンに命じて、ウンディーネが水鏡でここに浸入した者の姿を映し出す。 それは、同じ寵姫のイヴァル姫だけでなく、寵姫でも大人しいと有名であったクローディア姫の姿もあった。 レンカは、まずイヴァルの部屋にいくと、シルフに運んでこさせた牛糞をイヴァルの頭の上から浴びせて、小さな竜巻を起こさせて部屋を滅茶苦茶にしてやった。同じく、クローディア姫にも牛糞を浴びせて小さな竜巻をクローディア姫の部屋に起こさせて部屋を目茶目茶にしてやった。 すぐに二人の姫は、ユリシャに訴えた。 レンカが酷い意地悪をしたと。 レンカは浄化の精霊で室内を綺麗にしたあと、侍女の命じて傷ついた家具の全てを取り替えさせていた。そして、決してこのことをユリシャに言わないように口止めした。 「レンカ!」 流石に怒ったユリシャは、レンカの部屋にくると、レンカをぶった。 「何故そんなことをする!他の姫たちと仲良くしようという努力はできないのか」 「できないね」 レンカはまたぶたれた。それでもめげない。 べーっと舌をだして、それからレンカは部屋から逃げ出した。 くそったれ。 あーもう、家に帰りてぇ。 レンカは宮殿を走り抜けて、噴水広場のある中庭までくると、そこで初めて涙を零した。 「父さん・・・母さん・・・・大切にするって決めたのに、ごめん、なさい」 月を仰ぐと、3つの月が銀色に光っていた。 サーラの月は3つだ。 あまりのユリシャの怒りぶりに、二人の寵姫はざまぁみろと、酷い目あったけれど、胸がスッキリした気分だった。 噴水広場で、炎の精霊ドラゴン、イフリエルが優しくレンカを包み込んだ。 (泣くでない、竜の子。我らまで悲しくなる) 「泣いてないんかない。これ鼻水」 (いや、この場合思い切り泣けというべきか?) 「鼻水だから」 「レンカ」 月明かりの中、レンカに声をかけてきたのはニアだった。 「ニア?」 「騒ぎを起こしたそうだな」 「うん」 ニアは、レンカに近づくと涙を零し続けるレンカの頭を撫でて、胸をかしてやった。 「思う存分泣け」 「・・・・・うわあああ!ちくしょう!!」 レンカは、その日後宮に戻らなかった。ニアに与えられた宮殿の中の屋敷で一日を過ごした。 NEXT |