レンカ、狩りをする







「ラ・サーラ・リ・エーダ。我は風となり鳥となり羽ばたかん」

ユリシャが、飛翔の呪文を唱える。三人の背中に白い翼が生えて、そのまま馬から飛び立っていく。
真っ白な、天使のような翼はバサリと音を立てて、羽を散らせて空を飛ぶ。
ユリシャは空を翔けながら、神剣レイシャを優しい木漏れ日に反射させて、次々とモンスターを倒していく。でも、数が多い。

「つあっ」

炎のブレスを普通の剣で切り裂いたニアは、後ろから襲われて、反動で剣を地面に落としてしまった。
カキーンと、剣が大地の草むらに突き刺さる。

「ニア!!聖盾(ホーリーシールド)」

すぐにユリシャがニアに結界を張る。

「氷槍(アイスランス)」

ユリシャは詠唱を放棄して、呪文をニアを襲ったモンスターにぶつけた。それは氷の魔法。地面からいくつのも氷の刃がまるでランスのように突き出て、敵を刺し貫くのだ。でも、フレアリオーンは空を羽ばたき、何匹かうちもらした。
その全部が、レンカに向けて牙と爪を尖らせて襲い掛かってきた。

「レンカ!聖盾(ホーリーシールド)!!!」

レンカは、ユリシャの張った結界から脱け出した。

「な、レンカ!!」

「全てを引き裂く空の王よきたれ――」

言葉を紡ぐ。その言葉は力となって具現化する。

それは圧倒的な光景であった。
レンカの声に呼応して、森の空に巨大なドラゴンが現れた。

「あれは――空の精霊ドラゴン、エアリアル!!」

白い翼を羽ばたかせて、ユリシャが息を呑む。なんという巨大な体と存在感だろうか。精霊ドラゴンの中でも、月、太陽、闇、光の4大ドラゴンに継ぐ、空。海の聖獣とされるリヴァイアサンと同じで、精霊ドラゴンの中で最もドラゴンらしい形をしている。
他の精霊ドラゴンは精霊そのままの形だったり、人の姿をしていたり――特に、月、太陽、闇、光はフェンリルのような狼の姿をしている。そう、カッシーニャのような姿を。

「引き裂け!!!」

レンカがエアリアルの側まで羽ばたき飛翔すると、叫んだ。

(ゆくぞ。エアスラッシュ!!)

いくつもの真空の刃が、全てのフレアリオーンを引き裂き止めをさした。それを確認して、レンカは空のドラゴンを仰ぎ見る。

「わが身に戻れ!」

エアリアルは、青い光となってレンカの体に吸い込まれた。
これが、藤原一族の力。本来なら黒髪黒目が条件なのだが、レンカにも宿っている。竜の子と呼ばれる、精霊ドラゴンなどの精霊の長のドラゴンを召還したり、その力を使役する能力だ。

「凄いな。あんなドラゴンを見たのは初めてだ」

ニアが、圧倒的な姿が去っていった空間を見上げて、剣を拾い上げて鞘に収めた。

「あーうん。俺も初めて」

実際に、呼び出したのは初めてだった。

風、水、大地、炎、その他に空と海がいる。月は今は空位。太陽はもともとカッシーニャでこちらも空位だ。闇はラグドエルといって、竜の子が全ての契約した精霊ドラゴンを宿した時の姿である。そして光のドラゴンはレイシャ。今ユリエスが使っている、神剣レイシャがそれだ。普段は剣として存在し、聖戦がなくなった今は剣のまま静かに眠っている。

こうして、三人は無事にモンスターを倒すとテントの方に戻った。
皆、空のドラゴン、エアリアルの姿を見て圧巻された様子だった。それを呼び出したのが、レンカであると誰も信じられない様子だった。

「レンカが呼び出したドラゴンだ、あれは。害はない。フレアリオーンは全て退治した」

兵たちは、レンカに膝をつく。

「ちょ、なんだよ!!」

「黒き聖女の血をひきしレンカ様。素晴らしい」

レンカは照れて、ユリシャの後ろに隠れた。



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