レンカ、疑われる







レンカは、ついにはニアの私兵と暇になってしりとりを始めた。

「ユリシャのうんこー。次、こから」

「子豚」

「たんすの角のカレナのアホ。次ホ」

「ほらふき!」

「金玉!」

ニアの私兵はゴンと壁に頭を打った。美しいレンカは、見た目と違ってかなりがさつで男らしい性格だ。

「レンカ様〜。寵姫なんだから、もっと上品にいきましょうよ!」

「やだ!!」

そこに、皇后カレナが現れた。カレナは、レンカの様子を見ようとやってきて、階下からレンカの悲鳴が聞こえなくて不思議に思い、そして本物の拷問する男がぐるぐる巻きで見つかって、激怒していた。

「出なさい。ニア様のおつきの方ね。もう行って結構です」

氷のような冷たさの声。嫉妬はここまで女を歪ませるものなのかと、レンカは瞬く。

「で、でも」

「いけ!早く!!」

レンカは叫んだ。皇后カレナの手には本物の鞭と焼き鏝があった。
もしも、これがニアの私兵に向けられたら、ニアに顔向けできないと思った。

本当に、ヤバイ。皇后はかなり殺気だっている。

「いけ。ありがとな、庇ってくれて」

俺は、名前も知らないニアの私兵にウィンクした。縛られているため、それくらいしかできなかった。ニアの部下は、走り出す。ニアを呼んできてくれることに、俺は望みを託した。

「お泣き、この小娘!」

ビシィ!バシ!
加減もなしに、鞭で打たれる。
脳髄が揺れるような衝撃。ギシリと背骨が軋む。瞬きすら安易にできない。
打たれ続けている背中は皮膚が裂け、血が床にまで伝わって落ちてくる。

痛いけど、こんなことでへこたれるもんか。

「けっ」

ぐっと髪を掴んで、顔を無理矢理あげさせられた。カレナ皇后の翠の瞳が、忌々しそうに俺を見る。
俺は、血が滲んだ唾をカレナに吐きかけてやった。
カレナの激怒は最高潮に登った。

「お前なんて、死んでおしまい」

何十回鞭で叩かれたのか覚えていない。でも、レンカは悲鳴一つあげなかった。
そして、突然髪を掴まれると、戒められていたロープを切られて、無理矢理顔をあげさせられると、焼き鏝が目の前にあった。

真っ赤な鉄の、焼き鏝。それを皮膚に押し付けられたら、あっという間に皮膚は爛れ醜くなるだろう。

「これで、顔を焼いてやろうかしら」

皇后カレナは、自分の残酷さに酔いしれている。
レンカは、自由を取り戻した。血が滲んだ唇を舐めて、レンカはその焼き鏝を手の平で掴んだ。
じゅっ。
肉が焦げるいやな匂いと、痛みが体中にかけめぐるけど、それを持ったまま、レンカはついに切れた。

「うぜぇ・・・・」

ちょうど、皇后カレナの本物の拷問専門の男が牢屋に入ってきた。渦巻く殺意。堪えきれない。

「ひっ」

レンカの瞳を見たカレナは声を呑んだ。瞳が真紅になっていた。皇后カレナに掴みかかりそうなレンカに、拷問担当の男はカレナより凄まじい鞭を振るった。

「た、助かったわ」

「カレナ様、本当にいいんですか?寵姫でしょう、この方」

「処刑されたくないなら、拷問を続けなさい」

「は」

鞭で打たれて、レンカはボロボロになって床に転がった。だめだ、我慢できない。
ビシ、バシ。
床に転がったままのレンカに、男は容赦なく鞭を振るう。皮膚が裂けて血が飛び散る。

無理だ。我慢の限界だ。

「逃げろ、早く、逃げろ!!」

レンカは、皇后と拷問の男に向かって、逃げろと促した。

「何を言っているの、バカめ!」

ヒールで、レンカの顔をカレナが蹴り飛ばした。そしてレンカの頭をぐりぐりと足で踏みつける。

「も、知らね・・・・うぜぇ」

カレナは、全く屈することのないレンカに、短剣を取り出してちらつかせて見せた。

「陛下を今後誑かさないと誓いなさい。わたしに忠誠を誓いなさい。後宮から出るのです」

「やーだね」

レンカは、真紅に染まった瞳で皇后を睨み付けた。

「この!情をかけてやったのに!その目が、陛下を誑かすのよ!!」

気味悪く耀く真紅の瞳のレンカの右目を、皇后はなんとくりぬいたのだ。
神経ごと、ずるりと目玉が取り除かれていく感触。
凄まじい痛みに、気が遠くなる。一歩間違えれば今にも気絶しそうだ。

「ああああああ!!」

流石のレンカも悲鳴をあげた。

「あら、こうしてみると綺麗な色ね」

ボタボタと広がる真紅の血。レンカはぎりっと、唇を噛み締めた。

もう、どうもでいい。

皇后だからって我慢してたけど。

どうにでもなれ。

殺しても、知るもんか。




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