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右目が炎をふいているような感覚。溢れ出す鮮血は、レンカを中心に血の池を作ったが、すぐに血は止まった。
右目が焼けるように痛い。気絶してもおかしくない激痛。
ボロボロのレンカは立ち上がることもできない。でも、ゆらりと炎の影が揺らめく。レンカは意識を失っていた。でも、片方の左目は完全に真紅になり、レンカは意識のないまま立ち上がった。
そのまま、素手で拷問の男の胸を貫く。
素手で人の体を貫くなんて、普通の人間にはできない。
ブシュアアアアア。
噴水のように滴る血を前に、カレナは腰を抜かした。
「ひいいいいい」
「同じ目に、あわせてやろう」
レンカの意識は、カッシーニャのものにかわっていた。くり貫かれた右目を白髪で隠して、カッシーニャはレンカのボロボロの姿を見て、そしてニィっと嗜虐的に笑った。カレナよりも残酷に。
カレナ皇后の腹を何度も足で蹴り上げ、顔を踏み、美しい顔が青く腫れて鼻血を噴出するまでけり続けた。ボキっと音をたてて、カレナ皇后の鼻の骨が折れる。
「いやああああ、ぎゃああああああああああ!!!」
痛みにのたうちまわる皇后の髪を、引き抜くくらい強く掴む。
「まだ終わっていないぞ、人間。よくも我が半身をこんな目に合わせてくれたな」
カッシーニャは爪を伸ばして、カレナの翠の瞳の片方をくりぬいてやった。あまりの激痛に、カレナは失禁して意識を失った。
「カッシーニャ、やりすぎだ!」
「何故だ?腹がたった。レンカは私でもあるのだから」
レンカの中に宿っているカッシーニャの意識は、意識を取り戻したレンカに理解できないという風に語る。
「シルフ、二人に回復魔法を」
(仕方あるまい)
シルフはしぶしぶ、拷問の男と皇后に回復魔法をかけた。カレナ皇后の目は再生した。拷問の男もなんとか生きている。
「回復を・・・・っ」
ガクリと、レンカは牢の外にでると、そこに倒れた。
じわりと体中に広がっていく暖かな光は、太陽のドラゴン、そう、レンカの中に宿っているカッシーニャのものだ。太陽は一番再生の能力が高い。
黄金の光に包まれて、レンカは意識を失った。けれど、血まみれの姿のまま、カッシーニャがレンカと入れ替わり立ち上がると、まだ鞭の痕もある体を引きずって階段を昇る。
「だめだな・・・・・力が足りぬ」
鞭と手の酷い火傷はなんとか再生させたが、くりぬかれた右目は新しく再生したものの、光を宿さない。
「いっそのこと、殺すべきだったか?でもそれだと、レンカの立場が悪くなる。私の愛しいレンカが」
カッシーニャにとって、レンカは天界に残してきた子供と同じような存在。かつてカッシーニャを宿していたユリエスの中にいたカッシーニャと、レンカの中にいるカッシーニャは同一の存在でありながら、時空をこえた別の存在でもあった。
レンカの姿をしたカッシーニャは、ユリシャの私室にくると、そこで力つきた。たくさんの侍女や兵士とすれ違ったけれど、みんな片目が真紅で血まみれのレンカに怖がり、声もかけない。
「少し、休息する」
カッシーニャは、レンカと一緒に意識を閉ざした。
カッシーニャは、意識の奥底で胎児のように丸くなって眠るレンカを、包むように蒼銀の尻尾を巻きつけ、真紅の血のように真っ赤だけれど、どこか優しい眼差しでレンカを見つめる。
「レンカ。大丈夫か?傷は癒したが、右目の光が戻らない。しばらく、時間がかかりそうだ」
「あ、うん。ごめんな、カッシーニャ。我慢してくれて、ありがとう」
カッシーニャが本気を出せば、カレナも拷問の男も命がなかっただろう。それどころか、この城中の人間を殺しても怒り収まらなかったかもしれない。
俺は、ゆっくりと失った右目に手をあてる。
これは俺の意識体。そう、俺は今眠っている。
俺は、夢の中にいるように、意識を失った下で、自分を覚醒させた。
「ニア・・・こなかったな。どうしたんだろう」
「お前の親友か。ニアというのは、捕縛されていたぞ。ついでだから、助けて睡眠の魔法をかけておいた」
「ほんと――いろいろごめん、カッシーニャ」
「謝るな。お前は私であり、私はお前である。もっと私の力を使ってもいいぞ、レンカ」
「うん――」
レンカは、襲い掛かってくる凄まじい眠気に勝てず、カッシーニャの巨大な体に寄り添って、目を閉じた。
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