「レンカ!!」 カレナ皇后はすぐに医師によって治療を受けたが、半狂乱状態であった。今は安静の魔法をかけられて眠っている。 「レンカ!!」 何度揺さぶっても、レンカは反応がなかった。 ユリシャは馬を飛ばして、なんとか狩猟が終わると城に戻って後宮にいき、レンカの部屋にいったけれど、レンカはそこにはいなかった。ニアが、カレナの私兵に連れて行かれたと教えてくれた。ニアはカレナに一度捕縛され、その後レンカに助けられたが、睡眠の魔法をかけられて、ユリシャに起こされるまであろうことか眠っていたのだ。 ユリシャは舌打ちした。 まさか、カレナが動くとは思っていなかったのだ。これはユリシャの失態である。 探し回ったがどこにもいなくて、自室に戻るとそこに血まみれのレンカが天蓋つきの寝台の上に、死んだように倒れていた。 「レンカ」 うっすらと目を開いて、起き上がるレンカ。 「汝、真にレンカを愛しておるのか?」 「レンカ?」 「否。私はカッシーニャと呼ばれる精神存在。意識体である。本当のカッシーニャは滅びた。レンカとともにうまれ、育ってきたレンカの親であり友であり母である」 「カッシーニャ――」 レンカの姿をしたカッシーニャは、光を映さない右目を手で覆った。 「何故、レンカの側にいてやらぬ?皇帝の汝がいなければ、レンカは暗殺されるかもしれぬ」 「それは」 ユリシャは言葉に詰まった。できるだけ側にいているつもりだった。でも、レンカの存在はすでに皇后のカレナの嫉妬さえも誘い、カレナを動かしてしまった。 「守ると誓ったのだろう、レンカを。もっとも、私がいる限り、レンカをそうそう殺させはしないが」 「悪かった。私が愚かだった」 「レンカにかわる。甘えさせてやれ。それから、右目は今光を失っていて、色が真紅だ。眼帯をさせるなりしなければ、真紅は私の色として忌み嫌われているからな」 カッシーニャとは、伝説や伝承できいた存在と随分違うようだ。自分を宿す素体を大事にする。特にレンカのカッシーニャは精神存在だけであるため、レンカに依存している。 「あれ?なに、ここ。どこ?」 レンカは、ユリシャの手の中で目覚めると、右目を手で覆った。 「右目――ああ、くりぬかれたのか」 「誰にだ!」 「皇后に」 「カレナがか」 「あ、別に仕置きとかいいから。仕返しにくりぬいたから」 あっさりというレンカは、拷問を受けたというのにショックもないのだろうか。 ユリシャが手を伸ばすと、ビクリとレンカが体を震わせる。やはり、精神的に怯えていた。 「ユリシャぁ。もっと触って」 「すまない、レンカ」 「ん」 ユリシャに抱き締められて、レンカは安堵感を覚えた。ユリシャの蒼銀の髪に手をいれてすくと、それは蛍光灯にすけて美しい光の雫となってレンカの頬に落ちる。 なぜだろうか。 ユリシャといると、恐怖感も寂寥も感じない。 ただ、ほっとする。太陽のドラゴンであるカッシーニャの暖かさとはまた違う種類の、暖かさ。 俺は、ユリシャのことが好きなんだろうか。 でも、側にいたいとは思う。 こうして、頭を撫でられるのがたまらなく好きだった。 NEXT |