レンカ、今日もバトル







誕生祭は、まさに失笑で終わった。
イヴァルとクローディアは大恥をかいた。その恥をかかせた張本人であるレンカを罰してくれと、皇帝のユリシャに何度願い出ても、ユリシャはレンカを罰しない。

ならば、皇后陛下に頼もうとしたが、皇后はレンカのことになると顔色を変えて怯え出す始末。

カッシーニャを宿した時のレンカは、非情だ。情けというものをもたない。どんな残酷な仕打ちも平気でしてのける。それが、レンカのためにもなるからだ。
皇后のような、権力が上の者には「手を出せば殺される」という感情を植えつけるのが早い。

皇后と会うたびに、かってにレンカの瞳を真紅にして、カッシーニャはレンカに頼み込んで、レンカと入れ変わって、皇后に何度か、殺すようなことを示唆してみた。
皇后はすぐに顔色を変えて逃げ出した。

今のところ、恐怖心を植えつけられた皇后カレナからの嫌がらせはない。本気になれば、カレナはレンカを殺そうとする。
皇帝ユリシャの怒りもあり、それは今のところ避けれていた。
もっとも、いつかまたぶつかりそうだが。

「レンカ姫」

「んだよ」

猫なで声でやってきたのは、クローディアだった。部屋の外からレンカの様子を見ている。
レンカは、だらしない格好でゲームをしていた。隣にはニアがいる。

「まぁ、殿方がいるのになんて格好・・・・じゃなかった、仲直り、しましょう?プレゼントですわ」

「はぁ?仲直り?」

レンカは眉を寄せて、扉をあけるとクローディアを室内に入れた。その瞬間だった。待ってましたとばかりに、レンカの頭の上から馬糞が入ったおけがひっくりかえった。

「オホホホホ!あなたなんて牛糞を通りこして馬糞がお似合いよ!」

美しいドレス姿で高笑いするクローディアの目の前で、お気に入りの和服を馬糞で汚されたレンカは、同じように笑った。

「オホホホホ、それはどうも!嬉しくて〜〜涙ちょちょぎれる!!!」

シルフの精霊を呼び出して、馬糞を跡形もなく消し去ると、そのまま浴びた後さえないほどに綺麗にする。ちなみにシルフは浄化の作用ももつ。

カーン。本日も、寵姫同士でゴングの鐘がなる。

「なによ、あなたなんて!」

掴みかかってくるクローディアを足蹴りにして、レンカが飛び退ると、レンカはニアを呼んだ。

「ニア、肥溜めって何処にある?」

「ここから東・・・・っておい、本気か?」

肥溜めといっても、人の場合は水洗トイレが普及しているので、馬や牛の尿や糞がつまった肥溜めだ。

「東、了解っと」

レンカは東の空を見た。サーラの月が3つ、白銀の光を零している。
クローディアは、逃げ出そうとしているが、ドレスの裾をレンカに踏みつけられていた。

全く、クローディアもイヴァルといい、こりないことだ。牛糞を巻いたり、馬糞を降らせたり。これが後宮の名のある美姫のすることかと思うようなえぐいことを、平気でする二人。その矛先は、サリアにも及んでいるが、レンカが庇っているのでかなり矛先はレンカのほうを中心に向く。

「いってらっしゃ〜〜い。クローディア、30分肥溜めコース!!!」

「きゃああああ、いやあああああああ!!」

シルフと一緒に、クローディアは、東の酪農施設の近くにある牛糞の肥溜めに、頭からつっこんだ。無論、殺す気はないので、すぐにシルフが助けあげるが、今度は足から肥溜めにつっこむように放り込まれて、消えていくシルフに、クローディアは涙を流して助けを求めた。

「いやーおいてかないで!!」

シルフは、クローディア姫の前で、透明な乙女の体をくねらせて、微笑む。

(あほー!我が主をからうからじゃ)

シルフは、今馬が落とした馬糞を空間転移させて、クローディアの頭にのっけると、レンカの体の中に消え去った。


「お前さ。姫君にも容赦ないよな」

「馬糞浴びせられたんだぞ。お返しするのは当たり前だろ!!」

レンカはあきれ返っている。

「しかし、肥溜めコースってちょっとやりすぎじゃないか?」

「あいつら、イヴァルもそうだけど、牛糞巻いてもこりないんだよな!どういう神経してるんだろ」

「レンカの神経も相当図太いと思うぞ」

ニアは、綺麗になった馬糞が入ったおけを手にして、笑うのだった。
ちなみに、クローディア姫は1時間肥溜めに浸かった後、侍女によって救出された。

この世界では急速に魔法が使える人間が消えつつある。昔は、どの人間でも当たり前のように簡単な魔法なら使えた。魔力さえもたない者もおおい。クローディアもイヴァルも魔法が使えない。
いつも馬糞とか牛糞は、自分か侍女に命令して調達していることを考える、あの二人もほんと頑張るよなぁと、違う意味でレンカは感心したものだ。

レンカはシルフに命じるだけで、馬糞も牛糞もシルフが運んできてくれる。あとは、浴びせる場所とタイミングを計って命令するだけだ。
竜の子の力をこんなことに使うなんて、ご先祖様が知ったら多分怒りそうだけど。
今は寵姫であり、竜の子はレンカの力である。それは、レンカにとって最大の強みにもなっていた。
竜の子の力がなければ、精霊ドラゴンを扱えなければ、レンカとてクローディアやイヴァルの嫌がらせに屈したかもしれない。

そういう意味では、強化硝子並みにクローディアとイヴァルは強い。

レンカは、まだ右目に黒い眼帯をしていた。右目は少し光を取り戻したが、真紅のまま色が元に戻らないのだ。眼帯をしているとかっこいいとか、剣の練習のとき兵士に言われて、レンカはちょっとだけこのままの姿でもいいかなと思っている。右目の視界は、シルフが補ってくれるので、そういった意味での支障は今のところない。

なんかビジュアル系バンドっぽくない?リトリア風の服をきたレンカは、白い髪にオレンジのメッシュに、黒い眼帯が帰って余計に目立ち、見る者に美しいのにどこか危険な匂いを印象として与えた。
 



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