レンカ、皇帝とお茶をする







サーラにきて、さらに月日が流れた。もう、半年だ。サリアに宿ったユリシャの子は順調に育っているらしい。
皇后カレナは、サリア姫がレンカに庇われていると知った時、彼女を後宮から追い出すようなことを企んでいたのだが、止めた。
何も、子供がちゃんと無事に生まれてくるかなんて分からないし、生まれた後も無事に成長するかも分からない。カレナは1人で冷たく将来の、自分の暗躍に酔いしれた。

「お茶をしにきたぞ、レンカ」

「またかよ」

レンカがTVゲームをしていると、ユリシャがやってきた。
ここ最近、少し執務が忙しいユリシャは、レンカの部屋に来てお茶をするだけだ。
それが少し寂しくもある。

時間がある時は、剣を交えたり、この世界の歴史や文字を教えてくれるのだが。他に家庭教師はいらないかといわれて、ニアに教わるからとレンカは断った。
寵姫として、マナーをつけたいわけではない。ただ、最低限のことを知りたかった。
このサーラの世界は、本来なら自分の生まれ故郷でもあるのだから。

「今日は東方から取り寄せたグリーンティーだ」

「へぇ。紅茶よりこっちのが好きだな」

侍女がコポコポと白磁のカップに茶を入れて、去っていく。

一言で言えば、緑茶になる。

「ふむ。この渋い味がなかなか」

「あー懐かしい。たまに飲んだなぁ」

「お前のいた世界での飲み物でもあるのか、これは?」

「あ、うん。俺の住んでた国には茶道っていうのがあって、それに使うお茶。渋くてちょっと苦いのが特徴」

「ほう」

レンカは、グリーンティーにあうような、羊羹が食べたいなぁと思ったけど、流石にそこまでは無理だろう。
チョコレートクッキーという、少し合わない菓子を口にする。

「実はな」

「何?」

「宮殿の地下に、水晶洞窟が見つかってな」

「うん」

グリーンティーのおかわりを、自分で注ぎながら、レンカは興味深そうに話に聞き入った。

「モンスターが出るということで、ニアと一緒に先日退治に出かけたのだが」

「ちょっと待てよ!なんでそんな楽しそうなことに俺誘わないわけ!?」

「お前は私の愛する寵妃だ。その身に万が一のことがあったらどうする」

「いや、俺絶対、ピンチの時とかニアやユリシャより強いから!!」

きっぱり言い切るレンカ。

「まぁ、そうかもしれんが」

竜の子であり、精霊ドラゴンを使いこなし、呪文の詠唱なしで魔法を操るレンカに適う者は、果たしているのか?

「奥に祭壇が見つかったのだ。精霊ドラゴンを封じるこめた祭壇が」

「おっしゃ!俺の出番だよな!?」

「ああ、まぁそうなる。では、行くか。執務は全て終わった。今日はレンカとニアと共に、地下水晶洞窟探検をしようと思ってきた」

「分かってるー!」

グッと、親指を突き出してみせると、ユリシャは声を上げて笑った。

「本当に、こんな冒険ごとが、レンカは好きだな」

「だって後宮退屈なんだもん!剣の練習だけも飽きるし」

「そうだな。では、入り口にニアを待たせている。行こう」

ユリシャに手を繋がれて、レンカは腰にシルエドを下げて歩く。何も、後宮の中で手を繋がなくてもいいと思うのだが。
姫たちはユリシャに見とれ、次にレンカを睨む。
ユリシャの腰には、だから神剣レイシャが下げられていたのかと、レンカは遅まきながら気づいた。

皇帝としての衣装にしては、そういえば今日は幾分軽装である。それでも貴公子のような服であるのに変わりはないが。
反対に、レンカの衣服は和服だ。動きやすいので、最近はずっとこのデザインの衣服を着ている。

刀を差すように、聖剣シルエドを腰にさす。もともと、聖剣シルエドは、ユリシャの開祖、ユリエスの剣である。それが、帝国となった時に、皇位を継承する者と共に伝えられてきた。

皇帝の証はシルエドではなく、レイシャである。いつか、皇太子ユリナールも、即位の時に父であるユリシャからこの神剣レイシャを承り、皇帝となるのだろう。

宮殿の地下牢のある場所を過ぎて、更に奥。空気が冷えてきた。
奥に進むほど、道が狭くなる。
壁に穴が開けられた場所をくぐると、いきなり開けた場所に出た。そこは、水晶でできた洞窟だった。

「うっわー。綺麗」

「美しいだろう。もともと水晶の洞窟はもっと北の地にあるのだがな」

星が煌くような水晶の洞窟。冷えた空気は、更に奥から吹いてくる。

「よ、ユリシャ。レンカ。待ってたぜ」

ニアが、手を振ってこちらに歩み寄ってきた。

「では、行こうか」

「冒険だー!」

俺は、とてもわくわくしていた。
 



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