水晶の洞窟を進んでいく。ニア、ユリシャ、レンカの順で。 「3匹目!」 レンカは、シルエドで洞窟などに住みやすい小型のゴブリンを切り倒した。 「ゴブリンサモナーだ!」 ニアがあげた声は、水晶の洞窟に波紋して反響して返ってくる。 「ちい!」 キィキィと、大量に襲い掛かってくるゴブリンをユリシャは次々と切り捨てていく。それでも、ゴブリンサモナーは次々と新しいゴブリンを召還し、火の魔法をニアに向けて放つ。 一匹のゴブリンサモサーを仕留めた瞬間、ニアの後ろに天井に張り付いていた新しいゴブリンサモナーが、火の魔法を背中に直撃させた。 「ぐあっ」 「ニア!」 「おおおお、いけぇ、アイスティア!!!」 それは、カリンが契約した、本来ならばカッシーニャを滅ぼすには必要のない精霊ドラゴンであった。氷女と呼ばれる、精霊の長、アイスティア。この世界で唯一氷の属性をもつ精霊。 (凍れ) その一言で、全てのゴブリンとゴブリンサモナーは氷像と化した。それを、ユリシャが剣で砕いていく。 「ニア、平気か?」 「ああ、少し痛いが」 「ヒーリング」 ユリシャが、ニアに回復魔法をかける。 全てのモンスターを片付けて、更に奥に進むと、祭壇が見えた。 「周囲に文字が書かれているだろう。さっぱり解読できない。古代文字でも魔法文字でもない」 ユリシャは祭壇の側にくると、レイシャを鞘に収めた。ニアも、レンカも剣を収める。 「これは・・・」 祭壇の周囲に書かれていた文字は、レンカが育った日本語で書かれていた。 「俺、読める」 「本当か!?」 「うん。俺が育った国の文字だ、これ」 「なんと書いてある?」 「汝、見つめるは暗き夜に耀く者。明星を抱き、大地に落ちん。世界に溢れる魔力が消える時、我は耀く。我が名は――星の精霊ドラゴン「明星を抱きしルクレツィア」って書いてる」 「星の精霊ドラゴン?そんなもの、存在さえ聞いたことがないぞ」 「俺も初めて知った。他のドラゴンたちも、そんな存在は知らないっていってる」 (知らんねぇ。星なら、私と近い関係のはずだが) 空間に、夜の精霊ドラゴン、人型のパンデモニウムが現れて、しげしげと祭壇を見つめるが、首を振る。 (これは、この世界が創られた頃のものだ。知らなくて当然か。この力――月のムーンストリア、太陽のカッシーニャに似ている) 「パンデモニウム。どうすべきだと思う?」 (呼び出すしかないだろう、主よ) 夜の貴公子パンデモニウムは、黒い燐光を放って、レンカの中に消えてしまった。 「ふーむ。おーい、精霊ドラゴーン。俺竜の子なんだ。ちょっと話しませんかー?」 レンカは、まるでナンパするように気軽に祭壇に向かって声をかけるが、反応はない。 「どうする?」 「どうするといわれてもな」 ユリシャも困惑している。 (―――明星を抱きしルクレツィア) 声が、水晶洞窟中に響いた。 「ちょ、どうなってるんだ?」 ゴゴゴゴと、大地が揺れている。ガラガラといくつかの落石があって、目をあけると、祭壇が耀いていた。 (竜の子―――恋焦がれし我、幾千の時を経て。この世界を創造した神々によって創られ、封印され、自由を――) 星の祭壇から、12枚の黒い翼を持つ、3メートルはあろうかという、豹が現れた。 「ルクレツィア?」 (そう。我が名はルクレツィア。太陽のカッシーニャと共にこの大地にきたりて、封印されし忌み子。それでも、契約を我は望む。我は汝と共に生きたい。何千年待ったことだろう―――白きメシアよ。我と契約できるのは、白きメシアのみ) 白きメシアとは、レンカのことを言っているのだろう。白い髪に、銀の瞳。右目の黒い眼帯はもうとっている。光が戻ったが、右目は真紅と銀の中間の、不思議な色になってオッドアイになってしまったが。いつもは白い髪で隠していた。 「契約していい?」 ニアとユリシャは渋い顔をしているが、精霊ドラゴンのことはレンカに任すしかない。 「契約する。俺の名はレンカ。星のルクレツィア、今もって我が召還ドラゴンとならん―――」 (悲願は果たされた。今は眠ろう。星の力は、破壊。大地を、世界を砕くもの。力の使い方に気をつけよ、白きメシア、白き竜の子よ) 「うん、分かった!」 俺は頷いた。12枚の黒い翼は、まるでルシフェルのようだったけど、姿は豹に近い。他の闇、光、月、太陽が狼として統一されているのにも入らない、新しい精霊ドラゴン。むやみにその力を使わないようにすれば、きっと大丈夫。 レンカは、こうして星の精霊ドラゴン、ルクレツィアを従えた。 レンカの意識化の下で、眠っていたカッシーニャは、懐かしい存在を感じて目を開けた。 「ルクレツィア。この世界を破壊するためにあるお前が何故」 「契約したのだよ。お前の半身と」 「ふむ―――まぁいいだろう。私もこの世界を壊そうとしていた。今では本体を滅ぼされて、意識体だけだが」 「私は、この世界を破壊するためにあっても、白き竜の子がそれを望まない限り破滅はない。私は自由になったとはいえ、カッシーニャ。お前のように誰かに呪いをかけて、暴れまわったりはしない」 ルクレツィアは12枚の翼をわざと羽ばたかせる。 「ふん。勝手にしろ」 カッシーニャは蒼銀の尻尾を揺らして、全身真っ黒な黒豹を睨んだ。 「人の姿はどうした。ルクレツィア。豹など――」 「人の姿では、何かと不便だ。何せ、邪神カーリーと同じ姿なものでね」 「お前の存在が、邪神だろうに」 「何、破壊神と呼ばれたお前に言われたくない」 2匹の精霊ドラゴンは、数千年の時を経た再会を喜ぶわけでもなく、鬱陶しがるわけでもなく、実に淡々としていた。それが、神と呼ばれるものたちの生きる次元の感覚だ。 NEXT |