「城下町か。いいなー、賑やかで」 皇帝ユリシャの庇護の元、繁栄する城下町。帝都アルバスタの城下町は、他のどの自治国の城下町よりも明るく、人に溢れそして清潔感に満ち溢れていた。 普通は、路地の裏なんかにいくと孤児がいたりするのだが、アルバスタでは福祉制度が完璧なため、失業者や孤児を収容する場所も十分にあるので、浮浪者や孤児が城下町でスリをするような犯罪が起きることもない。 人が行き交う中、広場では踊り子たちが流される音楽のリズムにあわせて踊り、少し離れた場所では、吟遊詩人が胡弓を奏でている。 レンカは最初は踊り子たちを見て、コインを投げていたが、次に胡弓に興味を引かれて、クローディア姫をおいて、吟遊詩人の下にくると、美しい衣装が汚れるのも構わずに地面に座り込んだ。 クローディア姫は、それを遠巻きに見ていた。 護衛の兵士二人もレンカと一緒に地面に座って、吟遊詩人の奏でる音色に耳を傾け、籠の中にコインを投げ入れる。レンカは金貨も投げ入れた。 やがて踊り子の娘たちが、レンカたちを取り囲んで、胡弓の音色にあわせて踊り出す。 「一緒に踊りましょう!」 レンカも護衛の兵士も、時を忘れて踊り子たちと一緒にステップを踏む。 クローディア姫は、それを見つめている。レンカは、笑ってクローディア姫の手をとると一緒に踊り出した。 クローディア姫の体も自然とリズムに乗って、レンカと一緒に空を見上げながら輪をつくる。 たくさんの拍手の中、レンカは踊り子の人たちにもクレープを買ってあげて、甘いものが苦手という吟遊詩人の人には串焼きを買って渡し、地面に座り込んでいろいろと語り合う。 「後宮はどんなところですか、姫君?」 そんな簡単な質問に、レンカは優しく答える。 皆、レンカを慕うように、普通に接してくる。普通の後宮の姫君なら、町の平民になど目もくれないし、混ざってくることなんてありえない。レンカだから、普通に平民に紛れ込んで笑顔を零せることができるのだ。 これが、クローディア姫一人なら、平民たちはクローディア姫を遠巻きに見るだけで、踊り子の踊りも胡弓の音も、クローディア姫に向いてくることはなく、距離をおくだろう。 「あなたは、どうして」 クローディアは、涙が零れそうになった。 陛下の寵愛を得てなお、こんなにも自然体であれるのだろうか。普通は、その寵愛が他に向かないようにと必死で策を練り、そして疑心暗鬼になり、嫉妬に醜く汚れていくのだ。 どんな美しい姫でも、か弱い純心な姫も、乳母や侍女がかわりに策略をしてそれにまみれていく。 「クローディア?行こうぜ、ほら」 涙を滲ませたクローディア姫の手をとって、レンカは最初にクローディア姫が行くといっていた、城下町をぬけた草原にやってきた。 護衛の兵士は、レンカによって城に戻された。そこまでは馬車で向かう。 竜の子であるレンカがいれば、クローディア姫に不埒な真似をする輩もいないだろう。レンカは皇帝の信頼も厚いし、城下町に一人で出ることも許可されている。最も、一人で遊びにいっても退屈なので、レンカはいつも部屋でゲームばかりをしているけれど。 草原にやってくると、そこにはイヴァル姫もいた。 たくさんの花が咲き乱れる草原で、イヴァルは頬に手を当てて笑う。 「ようこそ、わたくしの花園へ!!」 「ここ、お前のなの?」 「さっきからわたくしのものにしたのですわ!!」 「あっそ」 興味なさそうに、レンカは馬車から降りて、イヴァル姫の前まで、クローディア姫を伴っていって。そして、はまった。ズボッっと音を立てて。 落とし穴に。 クローディア姫は、今までのしおらしさも何処にいったのか、高笑いしだす。 「オーホホッホ!!愚かなレンカ!!」 「無様ですわね!!ここまでくれば、早々に助けなんてきませんわよ!!」 イヴァル姫と並んで、クローディア姫は穴の中のレンカを見下ろした。 レンカはクローディア姫が少しかわいく見えたと思ったのだが、思うだけ損した。穴の中は、やっぱり恒例の如く牛糞まみれ。 イヴァル姫=牛糞でいいかもしれない。 まぁ、俺らライバルだし?ユリシャ巡る。 俺はどうでもいいんだけど。こいつら、飽きないよなぁ。 「俺が、竜の子っての忘れてない?明星を抱きしルクレツィア、きたれ!!」 虚空に、星の精霊ドラゴン、人型をとるルクレツィアが現れて、金環食の瞳で二人の姫君を見落ろした後、自分の主であるレンカを、泥にまみれた落とし穴から魔法で体を浮かせて、その体を抱き上げる。牛糞まみれのレンカの汚れを星の力で砕き壊して浄化し、美しき精霊ドラゴンは悠然と微笑む。星のルクレツィア。 その中性的な美貌に、クローディア姫もイヴァル姫も、釘付けになる。 「私の名はルクレツィア。覚えておいてもらおう、姫君たち。わが主レンカは、私だけの王」 ルクレツィアは、レンカにキスすると、そのままレンカを抱いて後宮まで戻ってしまった。 そして、ルクレツィアの魔法で、牛糞の落とし穴に頭から落っこちたイヴァル姫とクローディア姫は、泣きながら大声をあげて助けを呼ぶのだった。 NEXT |