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レンカは城下町で胡弓を奏でていた吟遊詩人が気に入り、ユリシャに頼んで、胡弓を習わせてもらうことになった。
ユリシャは、レンカが音楽に興味をもったととても喜んでいた。
音楽を嗜むのは、寵姫としての条件でもあるのだ。
だが、その胡弓を教えるのは、肝心の吟遊詩人ではなく、星のルクレツィアと呼ばれる精霊ドラゴンであるところが、ユリシャには気に食わなかった。
宮殿で、もっと腕のよい胡弓の楽師を呼べると思ったが、ルクレツィアの胡弓の腕はこの世界にこれ以上の者はいないといったレベル。
レンカは、今日も部屋で、ユリシャがカウチに寝そべって見守る中、ルクレツィアから胡弓を学んでいた。もともとピアノやヴァイオリンを幼い頃から学ばされていたレンカは、胡弓を弾けるようになるのもすぐだった。
いろんな楽譜の音楽を奏でる。その悠久の音楽に、ユリシャは耳を傾けながら、書類などの雑務をこなすのが日課になっていた。
「ルクレツィア、お前なんでもできるよなぁ」
「私の王のためであれば」
金環食の黒に金色を縁取った不思議な瞳をもつルクレツィアは、ユリシャから見ても美しく、寵姫にしたいほど完璧な存在だった。
ユリシャは、そのまましばらくレンカの部屋で過ごした後、会議があるた宮殿に戻っていった。
「王よ」
「ん?レンカでいいって」
「否。王は王である」
後ろから抱き締められた。そのまま、唇が重なる。
「ふ・・・」
舌がからまるほどの濃厚なディープキスをした後、ルクレツィアは離れた。
「王が、あの皇帝のものでなければな」
本当なら、こんな場面をユリシャに見られたくないけど、ルクレツィアには、側にいて欲しいと思う。まるで麻薬のようなかんじ。一度その存在を知ると、手放せない。大した用もないのに、ルクレツィアを召還しっぱなしで、たえずレンカの側にルクレツィアは存在し、そして戯れにキスや肌に触れてくる。
それ以上のことは、ユリシャが激怒するので、レンカが拒否している。ルクレツィアは本当に不思議な存在だ。何故そんなことをする?と聞けば、王に触れるのはドラゴンとして当たり前と、他の精霊ドラゴンが口にしない言葉を口にする。
すでに、キスなどをしている時点で、イヴァル姫やクローディア姫はその場面を目撃してはユリシャに告げ口をするのだが、相手は人でなくドラゴンなのだ。王とレンカを呼ぶ、特異な存在。無碍にもできぬ。
「また、あのドラゴンがいるわ」
イヴァル姫は、飲み物をレンカに持ってきて飲ませようとしたのだけど、あのドラゴンがいつもいるでの、邪魔で仕方ない。
「での、あのドラゴン美しいわ。陛下と同じくらいに」
クローディア姫に到っては、頬を薔薇色に染めていた。
「いくわよ、クローディア!」
「いつでも準備OKよ!」
レンカの部屋にやってきたクローディア姫とイヴァル姫。レンカは、ルクレツィアを黒い光にして胸の中に吸い込んだ。精霊ドラゴンは、召還が終わると光の色となって竜の子の中に吸い込まれる。
「レンカ姫。今日はとてもおいしいジュースが手に入ったので、わけにきましたわ」
「へ〜」
レンカは、黒いグラスに入れられたそれを受け取る。並々と注がれる液体。
ごくりと、二人は唾を飲んだ。
いろんな香草やら青汁唐辛子をいれた、激まずの、侍女に飲ませたら、その侍女は失神した。
「レンカ姫ともっと仲良くなりたいので、おすそ分けに」
「じゃあ、二人も一緒に飲もうぜ」
「ぐおおお」
「ぬおおお」
そうきたか。
イヴァル姫とクローディア姫は、怪しまれるのを避けるために、同じ黒いグラスに並々と液体をつぐ。先にレンカが一気飲みした。
レンカは、目をぱちくりとさせた。
「あ、これうまい」
「「ええ!?そんなはずわ!!」」
イヴァル姫とクローディア姫は、二人一緒にグラスの中身を煽った。
「もげえええええ!!」
「ぎにゃああああ!!!」
火を噴いて逃げ出す二人を見て、レンカは笑い転げた。
ルクレツィアが、味をかえておいてくれたのだ。
ああ、本当にあの二人はいつでも懲りない。また何か新しい嫌がらせを思いついたら、レンカのところにくるのだろう。
レンカは胡弓を奏ではじめる。召還してもいないのに、また出現したルクレツィアが、ニアやユリシャのためのカウチに寝そべって、金環食の目で自分だけの王を見つめる。
星のドラゴンの王は、とても美しい寵姫。ルクレツィアは、唇の端を少しだけ吊り上げた。王はまだ年若い。ルクレツィアは胡弓を一緒に奏で始めた。美しい二つの旋律に、後宮たちの姫はレンカなどと蔑んでおきながら、ルクレツィアの存在だけは認めた。ドラゴンは気高く、美しいものだ。特にルクレツィアは他のどの精霊ドラゴンよりも美しい。
ルクレツィアをレンカから奪ったらどうなるだろう。そんなことを、後宮の姫たちは考え出していた。皇帝ユリシャの前でも平気でレンカに口付けるルクレツィア。ユリシャも、それを許すのは相手がドラゴンであるからだ。人型ドラゴンが人と恋愛するなどありえない。
一度、ルクレツィアを呼び出したとき、ユリシャはルクレツィアにキスをされた。美しく気に入ったものにはこうして触れるのだという。だから、レンカに触れてもユリシャは許している。今のところは。
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