|
レンカは、その日は剣の稽古に宮殿にあがっていた。
最も、剣の相手ははいつもの師範の人ではなく、ルクレツィアだ。ルクレツィアの剣は、ニアやユリシャを上回った。
ルクレツィアは、星が瞬くような不思議な剣を振るい、それでレンカの剣を受け止める。本当に、いろんなことができる精霊ドラゴンだと再確認する。
人のように食事もしたりするし、眠ったりもする。
「王、俊敏さをもっと生かすべきだ。右に隙ができやすい」
「うい」
キン、カキンと何度か切り結びあって、レンカは降参した。ルクレツィアと剣を交わしたいとニアが進み出て、ニアも降参した。
まさに剣客。
レンカは、剣の練習も終わり、ニアの館でシャワーを借りると、ルクレツィアは図書館に勉強に行ってしまったので、いつもの如く一人で後宮に向かって歩いていた。
その時、頭から降ってきた牛糞の山をさっとレンカはかわした。
「きいいい、避けたわね!!」
「普通避けたくなるだろ」
イヴァル姫が、魔法が使える侍女に命じて空中に待機させてあった牛糞をつめた桶をひっくり返らせたのだ。
「イヴァル〜。お前牛糞すきだなぁ」
「そうですわ!わたくしは牛糞から生まれ牛糞をこよなく愛する姫・・・・ってそんなわけないでしょう!」
「はいはい、いってらっさーい」
レンカは、ひっくり返った桶を、イヴァル姫の頭に魔法で被せた。
「ああ、真っ暗よ!?太陽はどこ!?」
「お前の頭の上に太陽はあるぞー」
「牛糞臭いわ!!なんとかしてよ!」
「そうか。じゃあ、1時間コースいってくる?」
「え?」
レンカは、牛糞にまみれた美しい姫君を、ウンディーネに頼んで運んでもらう。シルフは最近こんな役ばかりが嫌になってきたらしい。ウンディーネは人魚のような肢体をくねらせて、イヴァル姫に水の鎖でぐるぐる巻きにすると、そのまま東にある酪農施設に飛んでいった。
「ああ、嫌な予感!!」
(ほんに、汝も好きものじゃの。さぁ、肥溜め1時間コースじゃ。わらわが特別に肥溜めをシャワーにして浴びせてやろう)
「のぎゃああああああ!!」
桶をとられたイヴァル姫は、ウンディーネによって肥溜めの成分100%のシャワーを頭上から浴びて、肥溜めに1時間浸かった。それからまた飛ばされて桶を頭に被り、そのまま今度は後宮の自分の部屋の中庭の噴水に頭から着水した。
噴水の中身も、肥溜めにかえられていた。
「息ができいいいいいなあああああ」
(おっといかん。ほれ)
桶を被ったまま、またイヴァル姫は空を飛んだ。ウンディーネと一緒に、城下町の畑に埋まったり、楽師が奏でる音楽に乗せて無理矢理踊らされたりして、そして最終的には、ニアとユリシャが会話している部屋の窓にはりついた。牛糞などは流石に城下町に連れていった時には洗い流してやったし、桶も外してやった。
物凄い形相のイヴァル姫が、ビタン!とガラス窓に張り付いて、ユリシャは目を見開いたが、ニアにいたってはあまりの形相に腰を抜かしていた。
「イヴァル。新しい遊びか?」
「陛下、そうですのよって違うわよ!!レンカが、酷いのよ、レンカがあああああ」
また飛んでいくイヴァル。イヴァルが消えて、ユリシャは何もなかったように、ニアを起こして、会議を続けた。
「ぎょええええええええ」
イヴァル姫は、最終的に、城下町のある民家の犬小屋に放り込まれた。救出されるまで、まる一日かかったそうな。
それでもイヴァル姫はこりない。助け出された翌日には、水洗トイレの下水の水をくみ上げてレンカにぶっかけた。
レンカはすぐにウンディーネによって身を清められる。
今度は、ちょっとイヴァル姫もピンチかと思った。
大地がひび割れるような音と共に、巨大な亀のようなドラゴンが現れたのだ。大地の精霊ドラゴン、ティターンであった。
そのまま、甲羅の上に乗せられて、イヴァル姫はぐるぐると空中で凄まじい速度で回転する。
「おえええ〜〜」
酔って、イヴァル姫は、ユリシャの部屋に空間転移させられた後、ユリシャの私室でゲロった。
「イヴァル・・・・・」
ユリシャは、イヴァルを兵につまみ出すように命じると、部屋を浄化の魔法で綺麗にした。本当に浄化の魔法は便利だ。
「ふう。まぁ、好きにさせておこう」
ユリシャに、イヴァルとレンカの争いを止める気は全くなかった。
NEXT
|