「精霊ドラゴンさん、主を変える気はない?」 星のルクレツィアが、後宮を歩いている時だった。イヴァル姫に手をひっぱられて物陰に連れ込まれた。 「変える、とは?」 「私を王にして!!」 イヴァル姫はそう申し出た。この精霊ドラゴンの力があれば、きっとレンカに仕返しができる。今までにないほどの絶望を味わわせることができると信じていた。 「王は一人のみ。複数の王は抱かない」 「だから、私を王に!!いえ、女王に!!」 ルクレツィアは、イヴァル姫の顔をじーっと観察してから、咳き込んだ。 「これは酷い。赤猿か」 「そうなのウッキー!!ってなに言わすのよ!!」 「いや、私は少々目が弱くてな」 ルクレツィアは、木に向かって話しかけていた。 「それは木!わたくしはこっち!!」 無理矢理顔を自分の方に向かせると、クネクネとしなを作って色仕掛けを始めた。それに、ルクレツィアは顔を蒼くして、一言。 「う、気分が悪くなった」 本当に気分が悪そうだ。 「失礼ね!!」 「赤猿を王にする気はない。我が王よりも素晴らしいのであれば考えもするが」 「素晴らしいわよ!胸だってこんなにあるしお尻だっていい形してるし、腰なんてこんなに細いわ!!」 「珍しい赤猿だ。吼え猿か?」 「猿から離れろーーー!!」 イヴァル姫は叫んだ。 「ではゴリラ姫」 「ウホウホ」 いちいち演じるイヴァルもすごい。 ルクレツィアは、木に向かって話しかけている。 「わたくしはこっちウホ!」 「これは失礼。私は星のルクレツィア。明星を抱きし者」 バサリと、背中に12枚の翼が広がり、その圧倒的なまでに神秘性と美しさに、イヴァル姫は見惚れた。レンカのものだというのか、こんな存在が。 「我が王はレンカ一人。白き王のみが私を支配化における。ゴリラは必要でありません。牛糞姫様」 最後だけやたら丁寧な口調になっているのが、余計にいらつく。イヴァル姫は、ならばと、短剣でルクレツィアの胸を刺した。 でも、ルクレツィアは平気な顔をして、血さえ流さない。 「私の王に、こういう真似をしないだけは褒めてやろう。したら最後、お前は砕く」 金環食の瞳でイヴァル姫の瞳を間近で覗きこんだ。 イヴァル姫は、初めてこのドラゴンがとても恐ろしく危険な存在であると知った。 そうだ、この存在、何故忘れていたのだろう。宗教の授業で学んだではないか。12枚の黒い翼をもつドラゴンが存在すると。それは神の化身。 星を抱くではなく、星を壊すルシフェル。 「ルシ・・・・フェ」 「そう呼んでいいのは王だけだ、女」 星を壊すルシフェル。それがルクレツィア・エル・ルシフェル。 ルクレツィアは笑うと、イヴァル姫を放置して、歩きだす。 そして、何事もなかったかのようにレンカの部屋に帰ってくると、胡弓を奏で、レンカの白い髪を撫でて、結い直す。 「王よ。星を砕きたいと思うか?」 「は?思わない」 「そうか」 髪飾りをつけてあげてから、ルクレツィアは褐色の肌を彩る金髪を結い上げた。そして、目を閉じてレンカの中に黒い光となって吸い込まれた。 NEXT |