「夜流殿・・・・まだ、授業ふけるつもりですか?」 「あ?なんか文句ある〜?」 屋上で寝そべっていた夜流に、学がやってきて、その隣に座り込んだ。 「あきら殿が心配していましたよ。教室に戻りませんか?」 「あきらにはお前がいるからいいじゃん」 「そういうものではないでしょう。夜流に何か悪いことしたかなって、哀しそうな瞳をしていましたよ」 「んー」 ゴロンと、夜流は学に背を向ける。 「なぁ、親友の存在意義ってなんだと思う?」 「さ、さぁ?親友は親友でしょう」 「でもさ、親友って一人じゃん」 「そうですね」 「お前、あきらの親友になりたい?」 「うん、できれば僕はなりたいですね」 夜流は金髪をかきあげた。太陽の光が反射して、きらきら耀く。ピアスも最近派手になった。 あきらにかまわれなくなった分、なんだか荒れ始めた夜流。それは透も学もきづいていた。 あきらがかまわないから、荒れてるんだと。 でも、とうのあきらは気づきもしない。 純粋培養すぎて、夜流のきもちのそれが「嫉妬」というものだなんて、気づかないだろう。 「お前さ、うぜぇんだよ」 「僕がですか。それはすみません」 「・・・・・・・・分かってるだろ。俺がどういう意味でうぜぇっていってんのか」 「そうですね」 夜流は立ち上がった。 学も立ち上がった。 「上等じゃん?」 「ひくつもりは、ありませんが?僕は別に悪いことをしているわけではありません」 「その正義ぶった面がうぜぇんだよ!」 ガッ。 繰り出した拳を、学は片手で受け止める。 「夜流殿こそ、いつもいつもあきら殿を自分のまるで所有物のように・・・・うざい、です!!」 ガッ。 学が繰り出した拳を、夜流も片手で受け止める。 「上等じゃんよ」 夜流は空を一度見上げてから・・・・学を、蹴り飛ばした。 そうだ、これはあきらをとられるのではないかという恐怖心からくる、嫉妬心。 あきらの心が、自分から離れていくのではないかという恐怖から、夜流は逃げて、それが学のせいなんだと決めつけて・・・・・苛立ちが、押さえられない。 「夜流ーー!!!学!!」 あきらの叫び声が、屋上で木霊した。 ちょうど、学を蹴り飛ばした瞬間に、あきらは屋上に入ってきた。 「けほっ・・・」 鳩尾に蹴りが入り咳き込む学に、あきらは急いでかけつける。 「大丈夫か、マナ!?」 「ちょっと・・・・急所に、決まりました」 「なんでこんなことするんだよ、夜流!?ひどいよ!!」 学を庇って、夜流はきっと夜流を睨みつけた。 「夜流、お前最低だ!こんな奴だって思ってなかった!お前もっと優しいやつじゃなかったのかよ!学にこんなことするお前なんて、友達じゃねえ!」 その言葉を、夜流はいつ浴びてもいいと覚悟していたので、夜流は顔色一つ変えなかった。 「うぜぇよ」 「え」 「うぜぇんだよ、あきら!お前の存在が、何もかも!!」 「夜流?」 「うぜぇーー!話しかけんな!!!」 触ろうとしてきたあきらの手を、パンと払いのけて、夜流は屋上を出て行った。 ********************************* はじめてのケンカ。 ただのケンカなら、仲直りする気があれば、できる。 呆然となって、それから教室に戻っていくあきらを見送って、一人屋上に残った雪白学は、空を見上げて・・・子悪魔のようにクスクス笑い出した。 「あーあ。あきらちゃん、かっわいそー」 おかしそうに、何度も笑い声をあげる。 それから、ポケットから携帯を取り出し、あるアドレスにかけた。 「うん。うまくいきました。口座に金ちゃんといれといてくださいね?明人(アキヒト)さん」 学は、ある男性に電話をいれた。 学の母親の愛人である男性に。 明人。夏樹明人(ナツキ アキヒト)それが彼の本名だった。 夏樹あきらの、実の父親の名前だ。 夏樹あきらの母、夏樹瑞希は離婚後も苗字を変えないことを選び、あきらの離婚後の苗字は夏樹のまま変わっていない。 「ありがとう、マナ。帰ったら、一緒にレストランにいこうか。欲しがってたペット買ってやる。口座にはもう金はふりこんでるよ。いい子だね、マナ・・・・・」 夏樹明人は、妻の離婚後、海外出張でフィリピンにいったはずだった。 でも、実は全部嘘だった。 まだ日本国内にいる。 そしてもともと愛人だった雪白学の母親の別宅に今は住んでいる。 「あきら・・・・愛してるよ」 明人は、今住んでいる自宅で携帯電話を切ると、一枚の写真をとりだす。離婚前、家族みんなでとった写真。 瑞希もマナもあきらもうつっている。 写真は瑞希もマナもマジックでぐしゃぐしゃに黒く塗られ、明人とあきらだけがくっきりと写っていた。 「かわいい、俺の子羊」 かわいいあきら。 かわいいあきら。 俺は ちゃんと お前の 側に いるよ お前の 住んでる 近くに ちゃんと かわいいあきら。 かわいいあきら。 「また、お父さんと一緒に住もうね。一緒のベッドで眠ろう。たくさん愛してあげるから」 NEXT |