「親友の存在意義」B







夜流とあきらがケンカして一週間が過ぎた。
二人は、一緒に登校するのもやめたし、行動も別々にとっている。夜流は中立にいた透とつるむようになって、そこに近づけないあきらは、学とつるむようになった。
夜流とあきらの席は隣同士だけど、いつもは授業中だってうるさいっていわれるくらいに、雑談しまくって、二人の笑顔は教室を明るくしていたけど、今は顔を見合わせもしない。
教室のみんなも、心配して二人に早く仲直りしたらどうだって話しかけるけど、根が強情なのか、二人とも相手が謝るまで許さないとその一点張りだった。
もっとも、夜流は謝ってもらえるはずもないと、ほとんど諦めていたけど。

あきらに、酷いことを言った。
あきらが悪いわけじゃないのに。
悪いのは、全部俺なのに。

夜流は、でも謝れずにいた。あんな酷いことを言ってしまったのだ。どうやって謝ればいいのか分からない。
授業はいつも通り行われ、そして夜流の周りには透だけがいた。あきらの周りには、学を中心とした友達の輪が広がっている。
昼になって、飯の時間になっても、夜流は透とつるんで食堂に出かけた。
あきらは、ちらと夜流の背中を見て、とても哀しそうな目をしていた。
夜流が大好きだった、バナナジュースを買ってきたあきら。昼休みの時間に、ごめんねって謝って、これお前好きだろ?ってあげようと思ってたジュース。
「お、あきら殿、それ飲まないのですか?」
「あーうん。学にあげるよ」
にっこりとかわいく笑って、あきらは学に夜流にあげるはずだったジュースをあげた。

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「学、行こうぜ。次体育だろ」
「おー、あきら殿。ちょっとまってくださいね。今用意しますので」
あきらは学と一緒に体育館に移動する。

「透、行こうぜ」
「ん・・・ああ・・・・」
透は、あきらと学の二人が気になるようで、夜流の問いかけに適当に相槌をうった。
「何、お前。あきらのほうにいきたいわけ?なら、別に俺とつるまなくてもいいんだぜ」
「あほ。そしたら、お前一人だろ。いや、お前には他にも友人なんてすぐできるだろうけどさ・・・・でも、このままでいいのかよ。あんなに仲良かったじゃんか!」
「・・・・・・謝っても、きっと許してくれない」
「そんなことねーって!あきらなら、絶対許してくれるって!」
「うっせ。いくぞ、透」
「ああ・・・・ったく、お前ら、タイプは違うのに強情なとこだけ似やがって」
透はため息をついて、夜流と一緒に体育館に向かう。

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体育館に向かうまえに、自分のロッカールームに立ち寄る。学もあきらも、夜流も透も。
そこに、体操服がいれられている。

ガンっと乱暴に夜流は中から体操服を取り出して、シューズも取り出して、仲良く雑談しながら準備を進めている学とあきらを視界の中から完全にシャットアウトしようとする。

とん。
肘がぶつかった。

「あ、ごめん」
「こっちこそ」

顔をみると、あきらだった。
夜流は・・・・その茶色の明るい瞳を、じっと見つめた。
あきらは、ぷいって顔を背けて、夜流に背を向ける。

そして、あきらは自分のロッカールームをあけて固まって・・・・悲鳴をあげた。

「いやあああああああああああああ!!!!」
ドサリ。
あきらが、倒れた。
夜流は人ごみをかきわけて、あきらを抱き寄せると、頬を何度か叩くが、あきらの反応はない。それから、開けっ放しのあきらのロッカールームを見て、蒼白になる。
「なんだよこれ・・・・・あきら、あきら!!!」
あきらが、悲鳴をあげた理由。
すぐに、分かった。

ロッカールームに、あきらの実の父親であり、あきらに五年間もの間、性的虐待をして、また日常的に暴力を振るっていた男・・・・夏樹明人の写真が、大きく引き伸ばされて、ポスターのようにあきらのロッカールームにはってあったのだ。
明人の顔は、まだ離婚する前から夜流はあきらの家に泊まりにいったので、何度が見たことはあった。
普通の紳士に見えたけど、最悪すぎる父親。最低の、父親だ。
暴力や放任主義だけでも最低なのに、性的虐待だなんて、屑の中の屑だ。

「あきら、大丈夫だ、俺がいるから!!」
夜流は、ざわつくクラスメートを無視して、ロッカールームからポスターになっていた明人の写真をはがしてぐしゃぐしゃにしてすてると、あきらを両手で抱きかかえて、保健室に向かった。

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ざわめくクラスメートの中。
雪白学は、小悪魔のような笑みを、浮かべていた。





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