あきら、あきら、あきら!! 軽すぎる体重に驚きつつも、抱きかかえて急いで保健室に向かうけど、誰もいなかった。 「くっそ・・・・」 あきらはまだ意識を失ったままだ。 とりあえず、あきらのブレザーの制服を脱がして、靴もぬがしてネクタイを外してから、ベッドに寝かせた。 あきらは、人形のようにピクリともしない。 呼吸しているのか不安になって、呼吸の音を確かめて安堵して、次に心臓の鼓動に耳を済ませてまた安堵した。 「なんだよあれ・・・・いたずらにしちゃ、性質悪すぎだぜ」 いたずら。 ただのいたずらだと、夜流は思った。 でも、どこかでひっかかる。 なぜ、わざわざあきらの父親の顔の写真なんて、ロッカールームに貼り付けたのだろうか。 あきらが父親と離婚していることは、クラスメートの誰もが知っていた。 でも、あきらが父親に虐待されていたことを知っているのは、夜流と透、それに公立高校に通う哲とマサキの四人だけだ。中でも、あきらが性的虐待まで受けていたことを知るのは、透だけ。 まさか、透があんなことをするはずがない。透の顔が浮かんだけれど、すぐに消えた。 「誰だよ・・・・くそ、絶対許させねぇ!!」 舌打ちをして、夜流はあきらのツインテールに結われた少し長くなった髪をほどく。 ストレートのクセのない髪が、シーツを流れていく。 肩より長くなった、あきらの髪。 いつもかわいいリボンで結われていたり、リボンが編みこまれていたり。母親がいつもそうしてあきらの髪をいじるのだ。あきらも、好きなようにさせているし、帰ったとき髪型が違うと母親の精神状態が悪くなるので、あきらはその髪型で登校して、そして帰宅する。 あきらの髪はサラサラだった。 茶色の、明るい色の髪。ふと、あきらが目を開けた。 「あきら!大丈夫か、あきら!」 「パパ・・・・・」 「あきら!?」 「パパ・・・・痛く、しないで・・・・・」 様子がおかしい。 「あきら、大丈夫だ、俺だ、夜流だ!!ここにいる、お前の側にいる。お前のパパから、俺がお前を守りぬくから、大丈夫だから、あきら!!!」 「ヨ、ル・・・・?」 唇が、不思議そうに夜流の名前を呼ぶ。 「マナは、何処?」 「マナは・・・・マナはお前の中にいる」 少し躊躇ったが、夜流はマナはお前の心の中に生きているのだと繰り返し教えた。 「お前の中で、マナは生きている」 「俺の、中?」 「俺が、マナの分まで、お前を守るから!マナの分まで、愛するから!」 「ヨ、ル・・・・・怖い、よ」 さし伸ばされる震えた手を、ぎゅっと強く握り締めた。 「ヨル・・・・あいつが、くる・・・」 「こない!ここにはいない!お前の側に近づけさせたり、絶対にしない!」 「本当に?」 「本当だ!俺が嘘ついたことあったか?」 「ない」 「大丈夫だから、安心して寝ろ。疲れてるんだ。大丈夫、ずっと側にいるからな・・・」 「うん・・・・」 あきらは、涙をシーツに零したあと、眠りに入った。 夜流は、いつも泊まりにいっているみたいに、夜流のベッドの隙間に入り込んで、夜の頭を抱き寄せて、ただずっとあきらが目覚めるのを待った。 ******************************** 2014、春の5月 あきらと夜流は、すれ違いながらも、また交差しあう。 NEXT |