レンカと白きメシア







そして、レンカの意識は完全にカッシーニャに飲み込まれていった。

「ルクレツィア・・・・久しいな。何千年ぶりだ」

ゆっくりと起き上がるカッシーニャとなったレンカを、ルクレツィアはただ黙して12枚の黒い翼を広げて抱擁てから、突き放した。

「我が王を返せ。カッシーニャ・・・・」

「レンカがカッシーニャに飲まれたのか!」

「そうだ、人の皇帝よ。愛する者を取り返せるか?人のお前に」

そういわれて、ユリシャはそうだと断言できなかった。相手は伝承の精霊ドラゴン。人の力で、はたしてどこまで相手になれるというのだろうか。だが、ユリシャはレンカを愛している。それだけは断言できる。

「俺は、レンカを愛している!」

「愛?そんなものが何になる」

ルクレツィアは冷笑した。同じように、カッシーニャも冷笑する。ルクレツィアは少なくともレンカの味方であるが、レンカ以外の人間に対する感情は冷めている。カッシーニャは、自分の体を指差した。

「愛?この器を愛していた?ただの器を?」

「違う!レンカは器などではない!お前の入れ物などではない!!!」

叫ぶユリシャは、神剣レイシャを鞘から抜き放つ。眩しい光が周囲を覆いつくした。

「ふ、光のレイシャか・・・・哀れな。剣などの姿になるとは」

「レンカを返せ!!」

カッシーニャは、レンカの中から生まれ、また3メートルはあるフェンリルとなった。レンカはそのフェンリルの側にゆらりと、まるで操られるかのように立っている。ユリシャはカッシーニャに切りかかるか躊躇したが、レイシャを一閃させてカッシーニャの前足を切断した。

「ふむ・・・・・まだ時期ではないか」

切り離された前足から大量の鮮血を滴らせて、カッシーニャは愉悦に口を歪める。それは、レンカの知っている友であり母であり半身であるカッシーニャとは違う存在のように見えた。

「違う・・・・・お前は、カッシーニャじゃ、ない」

カッシーニャに付き従うように立っていたレンカが、カッシーニャの意識に飲み込まれたはずのレンカが、瞳を銀と真紅のオッドアイにして、蒼銀のフェンリルを睨む。

「次代カッシーニャの名を受け継ぐ・・・・カッシーニャの子、カシウス!!それが、お前だろう!カッシーニャはこんな、俺をのっとるようなことはしない!カッシーニャは優しい母のような存在だ!俺の半身であり、友であり親だ!!」

「ばかな、何故、我が名を・・・・」

ルクレツィアが、星でできた剣を取り出して、ユリエスに背を預けて剣を抜き放つ。ユリエスも頷いた。

「カシウス・・・カッシーニャでないのならば、私も容赦はしない。カッシーニャは白きメシア、王の半身。殺せば王が死ぬ」

「なんだと。そんな話、初めて聞いたぞ!」

カシウスが放ったモンスターを切り倒しながら、ユリシャはルクレツィアが振るう星の剣の動きを見る。

「伝承にもあるだろう。カッシーニャが死ぬ時、即ち銀のメシア死す時。銀のメシア死す時、即ちカッシーニャ死す。白きメシアである我が王も同じ。カッシーニャの意識体を内在させている。それは半身のようなもの。それが死ねば、我が王も死ぬ。だからカッシーニャは殺せない。我が王の中からカッシーニャは消えない。だが、相手がカッシーニャでないのであれば!」

星の煌く剣を自由自在に操り、カシウスの体を少しずつ切り裂いていく。

「ふ・・・人ごときに我は倒せぬが・・・・ルクレツィアが相手ではな。引くとしよう」

カシウスは、器として選んだ、カッシーニャの意識体が宿るレンカ・・・・そう、器としてどの世界を探してもこれほど相応しい存在はいない者の中に、蒼銀の光となって吸い込まれた。

「くそ・・・・俺、寄生されてるんだ。カッシーニャの意識体があるのをいいことに、カシウスに。今まで気づかなかった。本当のカッシーニャが、意識の奥底で教えてくれた。どうすればいいんだ。カシウスを追い出す方法はないのか、ルクレツィア」

「今のところは、まだ思いつかぬ、王」

「くそ」

舌打ちするレンカを、ユリシャがモンスターの返り血を浴びた姿のまま抱き締めてきた。強く、強く。

「ユリシャ?」

「お前が・・・・このままいなくなる気がして、怖かった」

小刻みに、ユリシャの肩が振るえていた。レンカはユリシャを抱き締め返した。
夜が、明けようとしていた。


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