レンカ、カシウスを否定する







カシウス。
カッシーニャが、このサーラの世界に来る前に残してきた子供の名前だ。カッシーニャは、元いた天界に戻りたいがゆえに、幾度も世界を滅ぼそうとしては逆に滅ぼされてきた。
それでも何度でも蘇った。

それがカッシーニャ。
元々太陽の精霊ドラゴンであり、天界の神であった。
カッシーニャは銀のメシアの血の中に潜み、銀のメシアが死ぬとまた新しい銀のメシアが、リトリア王家の血を継ぐ者の中に生まれ、カッシーニャは血の中に潜み、いつも世界を壊すことを考えていた。
カッシーニャは、このサーラの世界を造った他の神々の手によって、故意にこの世界に残されて精霊ドラゴンとなった悲しき神である。
カッシーニャには、天界に残してきた夫と子供たちがいた。その一人かカシウス。

今まさに、レンカに寄生しレンカを支配しようとしている存在。カシウス=カッシーニャ。
次代カッシーニャの名を受け継ぐ者。
天界において、サーラの世界に取り残された母親のカッシーニャに変わり、カッシーニャとして君臨した神。
それが、サーラの世界に降りてきた。
しかもこともあろうか、カッシーニャの意識体が宿るレンカの中に宿った。器として、レンカを選んだのだ、カシウス=カッシーニャは。
他の人間ならば、器として選ばれた時点で死んでいるだろう。
銀のメシアがいなくなった今、白きメシアとして存在するレンカのみが器として相応しい存在であった。

「俺は俺だ。カシウスなんかに好きにされてたまるかよ」
レンカはそう毒づくが、怖かった。
確かに、あの瞬間自分はカシウスに支配されていた。
自我をのっとられる恐怖。
それは、想像以上に怖いものであった。

身震いを隠して、レンカはユリシャの背中をばんと叩いてなんとか笑みを刻むと、自分の胸を叩いた。
「心配すんなって!俺に任せとけよ。ルクレツィアもいるし、カシウスなんてぶち倒してやる!」
指をぼきぼきと鳴らすが、ユリシャはレンカを抱きしめて唇を重ねた。
「んーー!!」
どんとユリシャを押しのける。
「な、何しやがる!!」

「怖いんだ、レンカ。お前がいなくなりそうで」
「俺はここにいる。俺がカシウスじゃねぇ。神様だかなんだか知らないが全部否定してやる。俺はレンカだ。藤原レンカ。それ以外の何者でもねぇよ」
「それはそうだが」

ユリシャは水色の瞳で、自分の愛しい寵姫となったレンカを見つめる。
熱の篭った視線に、ルクレツィアが悲鳴をあげた。

「ああ、王よ。ラブラブあはんするのか。王よ・・・・我もラブラブアハンウッフンしたいぞ」
「レンカはやらないぞ!」
ルクレツィアの言葉はどこまでが冗談で本気かも分からない。星が瞬くような色彩をもったルクレツィアは、ユリシャにきつく睨まれると、両手を広げて降参したとばかりのポーズをとって、そして星屑となってレンカの中に吸い込まれていった。
いつもは召還されっぱなしだが、カシウスと対峙したことで大分体力を消耗したようで、いつもの不敵さはどこへいったのか、静かにレンカの中で、他の精霊ドラゴンたちと同じように眠りについてしまった。

「今日は、お前の部屋に泊まる」
「げっ。盛ってる?」
「盛っている。ウッフンアッハンしたい」
「皇帝がそんな言葉使うな」
スパーンとユリシャの頭をはたいていると、ちょうどレンカに嫌がらせをしようと部屋に入ってきたイヴァル姫に、熱い抱擁シーンを目撃されてしまった。
「ンク・・・あっ」
服の上から直接体のラインをなぞられている直後であった。

「なんだ、イヴァル。何か用か」
「へへへへへへ、陛下」
「どうした。屁でもかましたいのか」
「そうですの。プーーーってちがいますわーーー!!」
力みすぎて、本当にイヴァル姫はプーとおならをこいた。
全員が沈黙する。
イヴァル姫は指をレンカに突きつけた。
「あ、あなた、陛下の前でおならをこいたわね!下品だわ!」
「いや、こいたのお前だろ」
「そうよ!実もでたわ!」
「うわ、うんこもらしたのかよ。早く風呂入ってこい」
「ええい構うものですか!レンカ、陛下をたぶらかそうたってそうはいかないわよ!」

「レンカ」
ユリシャは騒ぐイヴァルを無視して、寝台にレンカを押し倒している。
「ちょ、イヴァルいるって」
「構うものか」
「んあっ・・・・っ、お前ほんとに盛るなよっ」
レンカは悪態をつくがもう遅い。こうなったユリシャは止まらない。

「陛下!ブリリリ」
「うわ。なんかすげー音した」
「あああああ、また実が出てしまったあああああ!!」
これでも本当に寵姫なのだろうか。イヴァルは。

「まぁ、飛んでけや」
レンカはシルフを呼び出すと、イヴァルを窓の外に放り投げた。イヴァルはあーれーとかお決まりな台詞を残して空を飛んでいく。
いきつく先は、前も埋まってた畑。
頭からずぽっとはまり、じたばたもがくがどうにもならない。
イヴァルは、次の日収穫に来た人に見つかり、収穫にきた人は人が生えてるとまた逃げ出したそうな。


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