ひゅるるるると、空から全てを見ていた聖者、黒猫のアルザが降ってきた。 アルザは空間を渡る能力をもつ者だ。 レンカをこの世界に連れてきたのもアルザである。 「カシウスかー。これまた派手にやったなぁ」 ほぼ全壊した後宮を見渡して、アルザはちょいっと、前足を泣いているユリシャの足に乗せる。 「いくか?たとえその身がちぎれるかもしれないとしても。たとえレンカのいない世界にたどり着くかもしれないとしても。たとえ、レンカのいる世界にたどりついたとしても、レンカが何も覚えていない可能性が大きいとしても。いくかね?にゃおー」 「聖者アルザ。答えは一つだけ。レンカに会いたい」 「そうか。ならば、行こうか・・・・ルクレツィアも来るといい。お前もいきたいのだろう」 「王に会えるのならば」 皇帝ユリシャの安堵を確認する兵士たちの声を遠くに聞きながら、アルザが道を開ける。 「さぁ、この先に。行こう、道は開かれた。星のルクレツィアが空間の歪みを正すだろう。あとは、時代があうかどうか。さぁ、行こう」 「行こうか」 「行こう」 ユリシャは、神剣を片手にその光のロードを歩き出す。 霧散したカシウスが、道の途中で母親であるカッシーニャに体を舐められながら、こちらを見ていた。 これは意識体。 体が滅びた神は意識体となり、魂まで滅ぼされればそれはただの「絵」となる。 カッシーニャの意識体ももはや絵であった。カシウスも絵であった。 たくさんの精霊ドラゴンたちが、光の道を同じように進んでいく。 主を求めて。 レンカ。 お前はどこにいる? 今、どこで何をしている? この世界を滅ぼそうとした神を滅ぼし、己まで滅びて。 光の道は長かった。 何年も歩いているような錯覚に陥る。 そして、光の最終地点に、レンカが最後に来ていた衣服が破けたまま転がっていた。 「レンカ。いるのか」 答えはない。 光の先は闇だ。 ルクレツィアも、アルザも他の精霊ドラゴンもそれ以上先に進めないようであった。 「お前がいけ、ユリシャ。帰ってこれないとしても、覚悟しろ」 「承知の上」 ユリシャは、闇の先にある扉を、そっと押した。 ギイと、重い音をたてて扉は開かれる。 その先は階段。 その階段を昇っては降りて、そんなことを繰り返して最後の扉にたどり着いた。 「お前を、妃にする。レンカ」 ギイと、扉が開かれる。 ユリシャの視界は、光で満たされて眩しくて何も見えなかった。 NEXT |