「ナイトとセカンドキス」A








ばからしい。そんなはず、あるわけないじゃないか。
夜流とは親友だ。
これは、ただのふざけあい。

すきなのって聞いたら、夜流を失いそうな気がして、あきらは聞けなかった。
夜流も、聞かれたらはぐらかそうと考えていた。

二人は。
あくまで、親友。
と も だ ち

彼氏と彼女だとか、ふざけあってるけど。
でも、あきらは男の子で、夜流の彼女になんてなれない。
夜流も男の子で、あきらの彼氏になんてなれない。だって、あきらは女の子じゃなくって、男の子、少年だもの。
それが、現実ってもの。

二人は、空を見上げた。
「夜流って、空見上げるの、好きだよな」
「そういうあきらも、空見上げるの、好きだよな」

「互いの心臓が止まるときは」
あきらが口を開く。その続きを、夜流が言う。
「お互いの心臓を鷲掴みにしたときだ」

二人は、顔を見合わせあって、笑うのだった。
あきらは、とても綺麗に笑う。夜流は、あきらの笑顔が大好きだった。
大きなアーモンド型の茶色の瞳に、自分の姿が写るのも、好きだった。

「ナイト」
「なんだ」
「王子様のセカンドキッス奪った責任、とれよな」
「おう、とりまくってやるよ!」

二人は、周りから見ても仲のいい男女のカップルに見えた。
通りすがりの女子高生が、「いいなーカップル、美男美女じゃん」とかいって、あきらと夜流を見ては騒いで、通りすぎていく。

女の子って見えるようにわざとコートを着て、ペアでいてもなんの違和感がないように帰って来たあきらは、多分、確信犯。
きっかけは、コンビニで買ったバナナジュース。
そして、そんなことも知らず、もともと保健室で額にキスしようかと思っていたけどできずに、噴水広場に誘われた時、もう額じゃなくって唇にキスすることを決めていた夜流も、多分、確信犯。

あきらが、顔を近づけて、目を閉じたのと見て、夜流はその桜色の唇に唇を重ねていた。
こんなシーン、クラスメイトに見られたら騒がれるだろうと分かっている。こんなのおかしいって、分かってる。
でも、こうなってしまったものは、もう仕方がない。

二人は、手を繋いで、歩きだす。
「夜流、今日俺んち泊まりにこいよ!」
「言われなくても、そうするつもり!」
「さすが俺のナイト様!」
「はいはい、俺の王子様」
二人はふざけあいながら、歩道を歩いていく。

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あきらは家に帰ると、母親の瑞希に心配して迎えられ、すぐに自室で寝るように言いつけられた。
あきらは、ベッドで横になると、TVをつけたりしていたが、落ち着かない。
「どーしよ・・・・」
今更になって、ドクドクと心臓が脈打って、とても恥ずかしかった。
もうすぐ夜流が泊まりにくるというのに。
「どーしよ・・・俺、変・・・・」
体が熱い。
触れた唇を何度も指でなぞる。
そして、目を閉じて、夜流が結い直してくれたツインテールの髪のリボンをとる。
マナがくれた、大切な黄色のリボン。

「どうすればいい、マナ?俺、変だ・・・・マナ、マナ・・・・」

ぎゅっと枕を抱きしめて、あきらはそれを、壁にはっていた、夏樹マナのポスターに向かって投げた。

「マナ、苦しいよ・・・・心が、痛い。俺・・・・・・始めて、マナ以外に、人を、好きになった。多分、これ初恋」

階下で、母親の呼ぶ声がかすかに聞こえる。
内線が入って、あきらは電話の受話器に出る。
「夜流君がきたわよ。部屋にお通しする?」
「あ、うん・・・・・通して!」
あきらは、そう答えると、マナのポスターに投げた枕を拾って、抱きしめ直す。

そして、もうすぐ開かれるだろう、扉の前に立って。

音もなく、唇を動かす。


( ス キ )








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