2014夏「連休と黒い影」@








2014夏7月。
大分、暑くなってきた。

日中は蝉の声がうるさい。もうすぐ、期末テストとテスト休み、それが終われば念願の夏休みだ。
もっとも、進学校なだけに、夏期講習がみっちりとあるけど。
でも、まとまった休みに入れば旅行なんかもいける。

その日は連休で、金土日と休みだった。
金曜は、あきらが夜流の家に泊まりにきた。今でも、夜流の両親はあきらを女の子だと思っている。
同じ学校に通っていることは知っているけど、女子学部のほうへ通っていると思っているらしい。あきらは必ず一旦家に帰るので、ブレザー制服姿で如月家にくることはない。
ブレザー制服を何よりも嫌っている母親は、あきらに「マナ」の格好をさせるために、すぐに着替えさせるのだ。中学校の頃は、女生徒制服なのでそんなことはなかったけど、今では学校からあきらが帰宅すると、すぐにいくつかの私服を取り出してきて、あきらに着替えるように促した。あきらもそれに従っている。
土曜と日曜は、今度は夜流があきらの家に泊まりにきた。

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「あら?」
瑞希は、ポストに入れられた封筒に、首をかしげてそれをしげしげと見つめる。
差出人の名前も住所もない。
ただ、あて先に「如月夜流様」とかかれていた。
「いやだわ、いたずらかしら・・・・一応、如月君に、渡しておこうかしら」
その封筒を夜流は受け取って、中身を見て、すぐに破いて捨てた。
あきらが見ないように、空き室のゴミ箱に捨てた。
そこは、かつてあきらが自分の部屋として使っていた部屋で、そこであきらは5年間悪魔の餌食になっていた。
実父という名の、黒い影に。

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「ん〜」
「ZZZZZZ」

その日は、いつものように、あきらの家のあきらの部屋に泊まった夜流は、夢を見ていた。
最近よく夢をみる。
夢の中で、あきらが出てきて、あきらと遊ぶ夢とか、普通にあきらと買い物する夢とか。
夢の中で、あきらは幸せそうに微笑んで、夜流とキスしたり普通にする。
夢の中の夜流はあきらと恋人同士で、一緒の家に住んでいる。

あー・・・・また、この夢か・・・・。

夜流は、走り去っていくあきらを、買い物の荷物をもって、足早に追いかけていた。

「あきら、またこけるぞ。あんま走んなよ」
「は〜い」

あきらはどんどん遠くに走っていく。
夜流は、あきらを追いかける。

あきらは、無邪気に笑って、そして夜流を誘惑する。
「こっちきてよ夜流。大好き」
「俺も好きだよ」

夢の中では、二人は甘い生活を送っているシーンばかりだった。

あきらに追いついて、夜流はあきらを抱きしめた。
あきらは、目を閉じる。二人はキスをした。

ふと、舞台がかわる。
一面中、花が咲き乱れる花畑。

「・・・・・・・あきら?」
みると、あきらは小さな檻の中に閉じ込められて、泣いていた。
「あきら、なんだよこれ!すぐに出してやるから!」
「夜流」
背後から声をかけられて、夜流は驚いた。
あきらがもう一人いたのだ。
「え、あきらが二人?」

「そのあきらを、愛するなら・・・・・あの悪魔から、守って」
「あきら?」
「違う。あたしは、マナ。あきらの双子の姉」
「マナ?」
「そう。あきらが、いつもマナって呼んでる、存在。あの悪魔から守って。じゃなきゃあきらをあげない。あきらを愛する権利なんてない。愛する人を守れない男に、あきらを託せないじゃない」

「マナ、マナ、愛してる」

檻の中で、あきらはマナにむかって手をさしだして、愛してると繰り返す。

「あきらは、壊れてる。どこかで、壊れてるの。あの男のあの悪魔のせいであきらは壊れた。でも、あきらはそこから這い上がって、あの悪魔に壊されたことを忘れることで、やっと落ち着いた。でも、また壊れしまう。あの悪魔がいる限り、あきらは壊れ続ける。この地獄から、あきらを、救ってあげて。あなたなら、できる。マナは、あきらを愛してるから、あきらが心配なの。あきらを愛して、そして守って」

「マナ、マナ・・・助けて、パパがくるよ、マナ!」
檻の中で、本物のあきらが泣きわめいていた。
「僕を汚しにくるよ、マナ、マナ・・・・・」
「今行くわ、あきら。一緒に、行きましょう」

檻の中からあきらを出して、マナがあきらを連れて行く。

「待てよ!あきら連れていくな!あきらは、あきらは俺が!!」


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そこで、夜流は目覚めた。
はっと目をあけて、ドクドクと脈打つ心臓に、そしてリアルすぎる夢に寝汗をたくさんかいていた。
「あきら!?」

目覚めるといつも一緒に眠るベッドの隣に、あきらがいなかった。
「あきら、あきら!?」

夜流は、あきらを探して、あきらの部屋を飛び出した。
小さな泣き声が、廊下の奥のほうから聞こえてくる。
夜流は、あきらの鳴き声を頼りに薄暗い廊下をはだしで歩いて、ある部屋の扉の前に立った。

そこは、空き部屋になっている部屋。
扉には「あきら」というネームプレートがかいてあった。
あきらの部屋のネームプレートは「マナ」

「あきら、いるのか?」
 




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