「夏休み」A







次の日は、市で開かれる夏祭りだ。
あきらは、浴衣でやってきた。いつもの噴水のベンチの前での待ち合わせ。
夜流は普通の私服だ。

透とマサキと哲は、三人で団体行動。
先に1時間だけ三人と一緒に露店を巡ったあと、夜流は噴水の広場にきた。ベンチには、浴衣姿のあきらが座っていた。
「彼女かわいいね〜」
「ちょ、離してよ!俺、彼氏待ってるんだから!」
案の定、ナンパにあってる
「いいじゃん、俺とまわろうぜ?」
ゴゴゴゴゴゴ。
「あ、きた」
「へ?」
夜流は、あきらの手を掴んで離さないナンパ男を、蹴り飛ばした。
「ぐげっ」
床にしりもちをつくその男に、一瞥をくれてやる。
「あきらは、俺の彼女だから。手、出さないでくれる?」
「そーだよ、手ーだすな。俺は夜流のものなんだから!」
あっかんべーと、あきらが夜流に抱きついて、背後から男をばかにする。
でも、そこで終わらないのがあきらだ。
「くらえや、急所蹴り!」
散々つきまとわれていたのだろう。腹を立てていたあきらは、ナンパ男の急所を下駄をはいた足で見事に蹴り、男はのたうちまわる。

「行こうぜ、夜流!」
「はいはい、王子様。王子様の仰せのままに」

夜流は、あきらをエスコートして、夏祭りを楽しむ。

「あ、金魚すくい〜。俺やる〜」
「はいはい。じゃあ一回、お願いします」
「ありがとうございます。お嬢ちゃん、彼氏とデートかい。浴衣よく似合ってるねぇ。いいねぇ、こんなかわいい彼女とデートだなんて」
金魚すくいの屋台のおっさんが、お金を払った夜流に礼を言ってから、しゃがみこんでいるあきらに、金魚すくいのための道具を渡す。

「まてまて〜捕まえるぞーコラー」
あきらは、幼い子供のように無邪気だった。
「あっちゃあ、破れた。もっかい!」
あきらは自分でお金を払って、もう一回挑戦するが、紙はまたすぐに破けた。
「むー。捕まえらんない・・・・」
「俺が見本見せてやるよ」
おやじに金を払って、夜流は子供時代に鍛え上げた腕で(夏祭りとか子ども会とかのイベントで)金魚をおわんいっぱいまですくった。
「お、兄ちゃんいい腕してるね」
屋台のおっさんも惚れ惚れするくらいだった。

「お嬢ちゃん、どの金魚がいい?」
屋台のおっさんがおわんの中を泳ぐ金魚を選べというけど、あきらは首をふった。
「お嬢ちゃん?」
「ん・・・・だめなの。俺んち、いきもの・・・・魚でも、かっちゃいけないから。ママが捨てちゃう」
「そっか。じゃあ、兄ちゃんもらってくかい?」
「あ、うん。俺がもらってくよ」
あきらはちょっと悲しそうだった。
金魚が二匹はいった袋を、あきらが嬉しそうに受け取る。
「夜流んちで飼ってくれる?俺の金魚って思っていい?」
「ああ、いいよ」
「やったー!」
手をあげて喜ぶあきら。
「じゃあ、名前つけよう。こっちがマナで、こっちがマナ!」
「どっちもマナかよ」
金色の金魚は元気よく泳いでいた。
「いいじゃん!マナみたいに綺麗なんだもん!」
「確かに、マナも綺麗だったけど・・・お前のほうが、綺麗だと思うぜ、俺は」
ボッ。
顔を真っ赤にして、あきらは先に歩きだす。
「おい、待てよ、あきら!」
夜流は苦笑して、あきらを足早に追いかけるのだった。



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