「夏休み」B








次は、射撃。
あきらはテディーベアをゲットした。
それを抱き締めて、嬉しそうにしている。
手を繋いで、屋台を見ながら、歩いた。

「焼きとうもろこし。んでフランクフルトに〜たこやき、あとリンゴ飴!焼き蕎麦に、お好み焼きにイカ焼き・・・・」
「おいおい、どんだけ食べるつもりだよ」
夜流が、指をおるあきらに苦笑する。
「残したら、夜流が食べてくれるでしょ!」
「ああ、もったいないし」
こうして、夜流は、あきらが食べかけのものばかり食べるはめになるのだ。
「俺・・・ちょっと、もうむり」
「えー。俺、まだリンゴ飴くってない」
「いや・・・ちょっとあきら、手当たり次第に買って食べて、途中で俺に渡すのやめようぜ」
「ナイトだろ!王子様の我侭にちゃんと付き合えよ!!」
パシャン。
あきらが持った袋の中で、金魚がはねた。

「お、あきらと夜流じゃん!」
偶然すれ違った哲が、手をふってこっちに走ってきた。
「うっわ〜あきらかわいい」
「だろー!俺もそう自分で思う。鏡みて、これイカスって思ったから」
母親に着付けをちゃんとしてもらって、髪を結い上げられて、簪もさした。
本格的で、和風美人に見える。髪や瞳の色彩は明るい茶色だけど、浴衣はよくあきらに似合っていた。
「もうすぐ、花火あがるぜ。マサキと透もいるんだけどどうする?合流する?」
「んー。だめ」
「なんで?」
あきらは、頬を紅くしてから夜流をちらっと見た。
「デート、だから。夜流との」

哲は目をぱちくりさせたあと、すぐに納得して、夜流の背中をバンと叩いた。
「ヒューヒューもてるねぇ。あきら、まじかわいいよ。つか、気づいてる?周りの男ども、自分の彼女無視して、あきらばっか見てるぜ。ちらちらとさ〜」
哲が、あきらに注がれる男の視線に気づいていた。
夜流はあきらに振り回されて、それに気づいていなかった。
「まじかよ。まぁ・・・・仕方ないか」
あきらのかわいさは、最近異常なまでに、とにかくかわいいとしかいえない。
元々女性の容姿をもっているあきらは、着る服もかわいいものだし、性格までかわいくなってきた。
こんな女の子、捜しても、絶対どこにもいない。こんなカワイ子、探しても絶対いない。そう断言できるくらいに、かわいい。
といっても、あきらは少年だけど。とても中性的ではあるけれど。

「あ、哲、頼みがあるんだけど」
「なんだ、心の友!」
「この金魚とテディベア、俺んちに持って帰ってくんね。ちょっとさ・・・・」
あきらは、すでに夜流と哲を無視して、違う屋台のほうにふらふら歩いていった。
目を離したら、蛍のように飛んで消えてしまいそうなあきらに、夜流は不安になった。
「あー。うん、手とか繋ぎたいんだろ。わかるわかる。おっけ、荷物おれが持って帰ってやるよ」
「ごめん、マジ恩に着る!」
「いいって!」
哲は、夜流からあきらがもっていた荷物を全部受け取って、鞄にテディベアをつっこむと、金魚の袋をぶら下げて、一緒に行動していた透とマサキがまっている場所に走って消えていった。

「あきら」
「なに〜」
「あれ、荷物どうしたの?金魚くんは?俺のテディは?」
「全部、哲に持って帰って俺んちにおいてくように頼んだから」
「そっか。じゃあ、帰りにテディだけとりにいくね」
「ああ。・・・・・・・手、繋ごうか」

「・・・・・・・うん」

二人は、手を繋いで歩きだす。

「あ、リンゴ飴みっけ〜」
「あきら!」
夜流の手を離して、歩いていくあきらを引き寄せる。
「ん?なぁに?」
「消える、なよ」
「バーカ。消えるかよ」
りんご飴を買ってやると、それをかじりながら、また二人で手を繋いで歩きだす。

綺麗なあきら。
夏のほたるのように幻想的で、でも儚すぎて消えてしまいそう。
ほたるはすぐに死んでしまう。
あきらも消えてなくなってしまいそうな気がして。

夜流は、あきらとずっと手を繋いでいた。




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