時計は、午後9時になっていた。 いつもはこんなに夜遅くまで遊び歩くことを許さないあきらの母瑞希であったが、今年は彼氏の夜流もいるし、デートだとあきらがすごく楽しみにしていたこともあり、夏祭りは日付が変わるまでに帰ってくる約束をして、ことなきを得た。 ひゅるるる〜パァン。 花火があがりだした。 あきらは、土手を歩いていく。 一番見やすい、特等席。 夏祭りの会場からはかなり離れた、高台にあるこの場所。 「うっわー綺麗!」 あきらは、生まれて始めて本格的な打ち上げ花火を見た。 それまで、そんなイベントがあっても出かけることなんて父親が許さなかった。自由になった今、はじめて見る花火に、あきらは目を輝かせた。 いくつのものたくさんの色が交じり合って、打ち上げられる花火。 匠の技の代物だ。 あきらは、声をあげることも忘れ、ただずっと花火を見上げていた。 夜流も、同じくあきらの側で、花火を見上げていた。 ふと、隣にいるあきらをみる。 その茶色の光彩に、花火が美しく煌いていた。 あきらの浴衣は、蝶々の柄。 夏の蝶のように、ゆらめくあきら。 花火の光に照らされて、浮かび上がるあきら。 あきらは、ふと自分に注がれる夜流の真摯な眼差しに気づいて、そちらを向いた。 「夜流?」 「なぁ、約束しろよ」 「何を?」 「俺をおいて、飛び立っていったりしないって」 「なんだよそれ」 「俺をおいて消えたりしないって」 「夜流らしくねー。何心配してんの?」 首を傾げるあきらを抱き寄せた。 「お前が・・・・いなくなる、そんな気がして、怖いんだ、俺」 「俺は、ちゃんとここにいるよ?」 トクントクンと、あきらの鼓動が夜流の耳に聞こえる。 「ほら・・・ちゃんと鼓動うってるだろ、俺の心臓。ちゃんとここにいるって」 「あきら」 最後の花火があがった。 あきらは、それを見上げる。 くいっ。 「あっ」 あきらの手をわざとひっぱる。 体勢を崩したあきらは、夜流の腕の中に落ちる。 「よ・・・・」 唇が、ふさがれた。 あきらは目を見開いたけど、そのままゆっくりと夜流の背中に手を回して、目を閉じる。 「ん・・・・・っん、ん」 甘い。 リンゴ飴の味がする。 あきらの唇を舌で舐めて、それから舌をあきらの口腔にいれる。 「ん・・・」 くすぐるように舌で、口内を弄る。じれったく絡みついてくるあきらの舌と何度も舌をからめる。 ディープキスを、夜流は続け、思うさまあきらの唇を貪った。 「好きだ・・・・」 「俺も、好き・・・・・」 はぁっと、二人の間で甘い吐息があがる。 あきらはもぞもぞしていた。 「あきら?」 「ん・・・・ごめ、おれ、ただのキスなのに・・・・・」 恥ずかしそうに視線をそらすあきらの手をひく。 「夜流?」 「感じた?」 耳に息をふきかける。 「んっ」 びくっと、あきらの全身が震える。 そのまま耳を甘く噛んで、舌をいれると、あきらの背中にまわっていた手がきつく、夜流の背に爪をたてた。 綺麗に伸ばされたあきらの爪は、綺麗に整えられていて、夜流の着ていた薄いTシャツごしに背中に食い込む。 「だめ、だって・・・・これ以上されたら、俺、俺・・・・」 潤んだ瞳が、夜流を見上げてくる。 夜流は、自分の情欲が弾けるのを感じた。 NEXT |