「新学期」B








「待てよ、あきら!」
「くんなよ!!」
あきらは夜流を置いて、どんどんと走る勢いをましていく。
「ばっかみてーじゃんおれ・・・・女の子、俺を見る目の色が変わった。気持ち悪いって思われた!!」
「あきらっ!!!」
人ごみの中を、あきらは心臓が破裂するくらい、走って走って走って。

ついには、追いかけていた夜流の声も聞こえなくなった。
そのまま、さまようように町をぶらぶらあてもなく歩く。
何度も夜流から携帯がかかってきたけど、あきらは出ない。メールが一件入っている。それだけ、あきらは見る。
(言いたい奴には言わせとけばいい。どう思われても、関係ないだろ?大切なのは、俺とお前のきもちだろ?)
それに、返信する。
(お前に迷惑かけた。お前が、そんなの目で見られるの、俺耐えられない)
(あきら、大丈夫だから)
(何が大丈夫なんだよ!)
(あきら、落ち着けよ)
(うるせぇ!うぜぇんだよ!!)
乱暴に言葉を打ち込んで、送信する。
次のメールがくるまで、しばらく時間がかかった。

(じゃ、別れよっか)

「え」
あきらは必死でそのメールを読み返す。
「嘘!やだ!!」
メールを入れるけど、返事はなかった。
携帯にかけるけど、留守電になっていた。
「夜流・・・・俺っ・・・・」
何度もメールを送る。
(ごめんなさい、夜流、怒んないで)
でも、返事はない。

気づくと、夕暮れになっていた。
そして、夜流の自宅の前にまできていた。
チャイムをおすと、夜流の母親が出てきてたけど、夜流はまだ帰っていないという。携帯で、朝方まで帰ってこないという連絡が入ったと、母親はあきらに告げた。
あがってまつ?という問いかけに、夜流は首を振って走り出す。

どうしよ・・・・俺、夜流を怒らせた。
夜流、どうして返事してくれないんだよ!
夜流、ごめんなさい。
謝りたいよ。
夜流、俺には夜流しかいないんだよ。
やだよ、このまま終わるなんて。
絶対にやだ!!
夜流、俺を捨てないで。夜流、夜流、夜流・・・・。

頭の中は、夜流のことでいっぱいだった。
一縷の望みを託して、いつもの噴水のベンチにところにいくけれど、そこにも夜流の姿はない。

「彼女、かわいいね〜。あれ、泣いてるの?どうしたのかな?」
「ふえっ・・・・」
あきらは涙を零して、ナンパしてきた男を振り切って、また走った。
そのまま、とぼとぼと歩いて、自分の家に向かう。
それまでの間に、何人もの男に声をかけられた。
あきらは全部無視して、歩き続けた。
「う〜」
あきらは涙を拭いて、もう一つの可能性にかけてみた。
哲や透、マサキといつもたむろしている公園。

キーコキーコ。
風に哀しげにぶらんこが揺れているだけで、人影はない。

(夜流、どこにいるの?)
メールをうつけど、やっぱり返信はこなかった。

そのまま歩いて、自宅の前までくると、あきらはボロボロと涙を流して蹲った。
「うあああああ」

泣き声が、小さくなっていく。

「うあああああ・・・・・」

こんなに哀しいと思ったのは、マナが死んでから初めてだ。
母親に自分の存在を否定された時も哀しかったけど、その時よりも哀しみは酷いかもしれない。

「泣くなよ・・・」
冷たく冷えた体温が、あきらを背後から包み込んだ。





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