「学園祭」D







その日一日、あきらの様子はおかしかった。
午後になってのウェイトレスの仕事も、注文のミスをしまくるで、バックヤードでドリンクを入れる普通の男子の作業にまわされる。
「はぁ・・・・・」
ぼとぼとぼと。
「ちょ、あきらコーラ零れてる!!」
「え、あ、うわ!!」
友人の指摘で、氷をいれたグラスにペットボトル入りのコーラをついでいたあきらは、溢れて床にまで零れていくコーラを見て、またため息をついた。
「どうしたんだよあきら。午後になって、ミスしまくりだぞ」
「んー。ちょっと、ショックなことがあって・・・」
「なんだ、ナンパされたことか?でもお前いつも学校の中でもナンパされるじゃん。外でもだろ?気にすんなって」
「うん・・・・」
声をかけてくれた友人が、零れたコーラの始末をしてくれて、それから透を呼んでトレイに乗せると、透が注文したお客さんに運んでいってくれた。
「俺・・・足手まとい、だよな」
「まぁ、あとで夜流にでも相談しろよ」
「うん」

相談できれば、とっくにしてるんだけどね。

名も知らない男にまたレイプされかかったなんて・・・しかも学園祭の最中の学校の中でなんて、言えるもんか。
もしも知られたとして、夜流は優しいからあきらを責めたりしないだろう。
でも、相手の連中を探してきっと荒れまくるに違いない。
もしも相手が見つかったら、今度こそ停学処分ではすまさないような暴力をふるうだろう、夜流は。
そういう恋人だから。夜流は。優しくって強くて・・・・でも、独占欲が意外と強くて。
夜流に迷惑をかけることだけは、避けないと。

「夜流、はいサイダー3人分」
「OK。運んでくる。あと、コーラ2人分追加」
「らじゃ」
「あきら。哲とマサキがきたぞ。仕事もう全部やめていいから。調子悪そうだし。一緒に席座って話してこいよ」
「まじで?哲とマサキきたの!?わーい、やったー!ドリンクおごってもらおー」
無理やり暗くなっていた思考をきりかえて、あきらは走っていく。
それを見送って、夜流はなんともいえない心配そうな目を伏せる。
あきらにも、夜流にいえないいろいろな事情があるんだろう。恋人同士だけど、やっぱり他人であることにはかわりない。あきらの全てを知りたいけど、知ったようでまだ知れていない。

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「マッサキ、テ〜ツVVV」

「ん?うっわ、あきらかよ!かわいー!!」
ふりふりのゴスロリのメイド服のあきらに、哲はぱぁぁと顔を耀かせた。
ハートマークを振り飛ばして、あきらはマサキと哲のいるテーブルに近寄ると、隣のあいていた椅子をかってに二人が座る席に近づけて座る。
「哲、目がハートマークなってる」
あきらがけらけら笑う。
「いやこれは・・・・・」
「おー、あきら。一緒になんかドリンク飲もうぜ」
透もいつの間にかウェイトレスを切り上げ、マサキと哲に混じっていた。
「じゃあ、ウーロン茶!」
「おれ、アイスコーヒー。支払いはマサキね。俺とあきらの分」
「透、わかってる〜vV」
あきらはテーブルに頬杖をついて、哲と透と雑談をしだす。
「マサキ?」
透が小首を傾げた。
「その胸・・・・やっぱ、偽物だよな?」
「ああ、これ」
透が、マサキの手を自分の胸に導く。
「俺のも偽物だよ〜」
反対の手を、あきらが自分の手に導く。
「ちょ、お前ら・・・」
いつもはクールなマサキが紅くなっている。

透とあきらは顔を見合わせた。
「俺らの衣装さ。特別なんだよ・・・・ゴスロリメイド。あきらのほうがレースとかフリルありまくりだけど。ほら、スカートの中も・・・本格的だろ?ガーターベルドまでしてるんだぜ、俺とあきらだけ」
びらっと、透は惜しげもなく日に焼けていない白い太ももをマサキに見せる。下着は見えないぎりぎりの状態。
流石に、あきらはそこまでできなかったけど。
ガーターベルトに手をかけさせて、透が小さくマサキの耳元で囁く。
「下着・・・黒のすっごいレースのやつ。マサキが好きな大人、のやつね。俺の淫らな姿想像してる?・・・・マサキ」

「ブッ!!」

マサキは。
川原マサキ、16歳、あきらと夜流、そして透と哲の共通の友人。公立高校に通う、イケメンの少年。
彼女は今のところ、いない。
そのマサキは。
透の熱の篭った囁きと、潤んだ目と、格好に。
鼻血をふきだして、後ろに倒れこんだ。
どんがらがっしゃん。
そんな音がして、哲も透もあきらも目をつぶって、音がなりおわってから惨状を見る。
「うっは・・・すげ。マサキが赤面したり鼻血だしたり・・・ひっくり返ったり・・・・こんなに動揺してるシーン、はじめて見たぜ!」
哲は携帯をとりだして、ぶざまなマサキをパシャパシャとりまくった。
「うっせ!ちっくしょ、透!!あとで覚えてろよおおお!!」
「あははは」
「あきらもだ!!」
「きゃいん!!」
あきらは子犬のようにないて、夜流が運んできてくれたウーロン茶をうけとってそれをゴクゴク飲むと。

みんなの前で。

「夜流、俺のスカート捲りたい?俺をめちゃくちゃにしたい?」
なんというのか、あきらはアルコールも飲んでいないのに、その場酔いして顔を真っ赤にしてヒックとかいっていた。
「捲りたい。捲ってガーターベルト外して太ももに顔すりすりして、お前が泣いて許しこうまでめちゃくちゃにして、俺だけのものにしたい」
もう一人のイケメン夜流は、真顔で変態な言葉を放つ。
冗談とも本気ともとれぬ夜流のいつもの性格のせいで、みんな笑ってたけど。
「じゃあ、一回だけ」
ちらりとスカートをもちあげるあきら。
夜流は、平然とあきらの胸を触った挙句、スカートの中に手を忍ばせてガーターベルトを指で確かめると、あきらの足のラインを手全体でなぞって、それから右手であきらの顎を持ち上げると、舌を絡ませあってキスをした。
「んあう」
あきらが、艶めかしい声をあげる。


「お前らー、百合行為は禁止だ!いちゃつくなら家でやれ!!」


いや、本当はBL行為なんですけどね。少年同士ですし。

実行委員長が大声をあげて、顔を真っ赤にしながら、怒鳴った。
夜流はもう、あきらと付き合っていることを、他の友人に隠す気もなかった。いつも側にあきらを侍らせて、手をつないだり額にキスをしたり、最近は学校の中でまでそんなことをしているので、誰も何も言わないけど、あきらが夜流と付き合っていることはみんな実は知っていた。




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