その日一日、あきらの様子はおかしかった。 午後になってのウェイトレスの仕事も、注文のミスをしまくるで、バックヤードでドリンクを入れる普通の男子の作業にまわされる。 「はぁ・・・・・」 ぼとぼとぼと。 「ちょ、あきらコーラ零れてる!!」 「え、あ、うわ!!」 友人の指摘で、氷をいれたグラスにペットボトル入りのコーラをついでいたあきらは、溢れて床にまで零れていくコーラを見て、またため息をついた。 「どうしたんだよあきら。午後になって、ミスしまくりだぞ」 「んー。ちょっと、ショックなことがあって・・・」 「なんだ、ナンパされたことか?でもお前いつも学校の中でもナンパされるじゃん。外でもだろ?気にすんなって」 「うん・・・・」 声をかけてくれた友人が、零れたコーラの始末をしてくれて、それから透を呼んでトレイに乗せると、透が注文したお客さんに運んでいってくれた。 「俺・・・足手まとい、だよな」 「まぁ、あとで夜流にでも相談しろよ」 「うん」 相談できれば、とっくにしてるんだけどね。 名も知らない男にまたレイプされかかったなんて・・・しかも学園祭の最中の学校の中でなんて、言えるもんか。 もしも知られたとして、夜流は優しいからあきらを責めたりしないだろう。 でも、相手の連中を探してきっと荒れまくるに違いない。 もしも相手が見つかったら、今度こそ停学処分ではすまさないような暴力をふるうだろう、夜流は。 そういう恋人だから。夜流は。優しくって強くて・・・・でも、独占欲が意外と強くて。 夜流に迷惑をかけることだけは、避けないと。 「夜流、はいサイダー3人分」 「OK。運んでくる。あと、コーラ2人分追加」 「らじゃ」 「あきら。哲とマサキがきたぞ。仕事もう全部やめていいから。調子悪そうだし。一緒に席座って話してこいよ」 「まじで?哲とマサキきたの!?わーい、やったー!ドリンクおごってもらおー」 無理やり暗くなっていた思考をきりかえて、あきらは走っていく。 それを見送って、夜流はなんともいえない心配そうな目を伏せる。 あきらにも、夜流にいえないいろいろな事情があるんだろう。恋人同士だけど、やっぱり他人であることにはかわりない。あきらの全てを知りたいけど、知ったようでまだ知れていない。 ****************************** 「マッサキ、テ〜ツVVV」 「ん?うっわ、あきらかよ!かわいー!!」 ふりふりのゴスロリのメイド服のあきらに、哲はぱぁぁと顔を耀かせた。 ハートマークを振り飛ばして、あきらはマサキと哲のいるテーブルに近寄ると、隣のあいていた椅子をかってに二人が座る席に近づけて座る。 「哲、目がハートマークなってる」 あきらがけらけら笑う。 「いやこれは・・・・・」 「おー、あきら。一緒になんかドリンク飲もうぜ」 透もいつの間にかウェイトレスを切り上げ、マサキと哲に混じっていた。 「じゃあ、ウーロン茶!」 「おれ、アイスコーヒー。支払いはマサキね。俺とあきらの分」 「透、わかってる〜vV」 あきらはテーブルに頬杖をついて、哲と透と雑談をしだす。 「マサキ?」 透が小首を傾げた。 「その胸・・・・やっぱ、偽物だよな?」 「ああ、これ」 透が、マサキの手を自分の胸に導く。 「俺のも偽物だよ〜」 反対の手を、あきらが自分の手に導く。 「ちょ、お前ら・・・」 いつもはクールなマサキが紅くなっている。 透とあきらは顔を見合わせた。 「俺らの衣装さ。特別なんだよ・・・・ゴスロリメイド。あきらのほうがレースとかフリルありまくりだけど。ほら、スカートの中も・・・本格的だろ?ガーターベルドまでしてるんだぜ、俺とあきらだけ」 びらっと、透は惜しげもなく日に焼けていない白い太ももをマサキに見せる。下着は見えないぎりぎりの状態。 流石に、あきらはそこまでできなかったけど。 ガーターベルトに手をかけさせて、透が小さくマサキの耳元で囁く。 「下着・・・黒のすっごいレースのやつ。マサキが好きな大人、のやつね。俺の淫らな姿想像してる?・・・・マサキ」 「ブッ!!」 マサキは。 川原マサキ、16歳、あきらと夜流、そして透と哲の共通の友人。公立高校に通う、イケメンの少年。 彼女は今のところ、いない。 そのマサキは。 透の熱の篭った囁きと、潤んだ目と、格好に。 鼻血をふきだして、後ろに倒れこんだ。 どんがらがっしゃん。 そんな音がして、哲も透もあきらも目をつぶって、音がなりおわってから惨状を見る。 「うっは・・・すげ。マサキが赤面したり鼻血だしたり・・・ひっくり返ったり・・・・こんなに動揺してるシーン、はじめて見たぜ!」 哲は携帯をとりだして、ぶざまなマサキをパシャパシャとりまくった。 「うっせ!ちっくしょ、透!!あとで覚えてろよおおお!!」 「あははは」 「あきらもだ!!」 「きゃいん!!」 あきらは子犬のようにないて、夜流が運んできてくれたウーロン茶をうけとってそれをゴクゴク飲むと。 みんなの前で。 「夜流、俺のスカート捲りたい?俺をめちゃくちゃにしたい?」 なんというのか、あきらはアルコールも飲んでいないのに、その場酔いして顔を真っ赤にしてヒックとかいっていた。 「捲りたい。捲ってガーターベルト外して太ももに顔すりすりして、お前が泣いて許しこうまでめちゃくちゃにして、俺だけのものにしたい」 もう一人のイケメン夜流は、真顔で変態な言葉を放つ。 冗談とも本気ともとれぬ夜流のいつもの性格のせいで、みんな笑ってたけど。 「じゃあ、一回だけ」 ちらりとスカートをもちあげるあきら。 夜流は、平然とあきらの胸を触った挙句、スカートの中に手を忍ばせてガーターベルトを指で確かめると、あきらの足のラインを手全体でなぞって、それから右手であきらの顎を持ち上げると、舌を絡ませあってキスをした。 「んあう」 あきらが、艶めかしい声をあげる。 「お前らー、百合行為は禁止だ!いちゃつくなら家でやれ!!」 いや、本当はBL行為なんですけどね。少年同士ですし。 実行委員長が大声をあげて、顔を真っ赤にしながら、怒鳴った。 夜流はもう、あきらと付き合っていることを、他の友人に隠す気もなかった。いつも側にあきらを侍らせて、手をつないだり額にキスをしたり、最近は学校の中でまでそんなことをしているので、誰も何も言わないけど、あきらが夜流と付き合っていることはみんな実は知っていた。 NEXT |