「・・・はっくしょん」 学園祭も無事に終わって中間テストも終わり、11月にはいった。 肌寒い季節になって、制服も夏服から冬服に変わったある日。 「っくしょん」 あきらはまた、くしゃみをした。 銀髪に染めた透の髪が、窓から入ってくる太陽の光に透けてキラキラ輝いていた。あきらは透の髪があまりに綺麗で手を伸ばす。 「どうしたよ、あきら?」 「ん・・・透、月の女神みたい」 「はぁ?」 透は素っ頓狂な声を出した。 あきらのほうが、よほど月の女神のように美しいのに。あきらはにへらと笑って、机につっぷした。 昼休みもあと10分ほどで終わってしまう。 あきらと透とそれから夜流は固まって教室で食事をとっていた。 あきらの母、瑞希が作った少女趣味っぽい弁当箱の中身は全然減ってない。 食欲もないようだ。 「あんま無理するなよ、あきら。早退するか?」 「んー。眠い・・・・」 目をこすって、あきらはけだるげに恋人の夜流を見上げる。 「寒い・・・」 カタカタと僅かに身を震わせるあきらに、夜流は自分のブレザーを脱いで肩にかけてやった。 それから、額に手をあてる。 「・・・・・・・微熱だけど、あきら体弱いし虚弱体質だから・・・早退するか」 XXYの染色体をもつあきらは、他の同じ症例と似たように、あまり体が強くない。ちょっとしたことで熱を出したり、貧血で倒れたりもする。 「あきら、もう少し我慢しろよ」 「うん・・・」 そういって、夜流はあきらの荷物をまとめ出す。 「ちょ、なんで夜流まで帰る用意しだすんだよ」 「こんな状態のあきら、一人で帰らせるわけにはいかないだろ。瑞希さんだと、電話いれると興奮して車で事故でも起こしそうで怖いし」 あきらの母親、瑞希はあきらが体調不良になるとよく高級車で迎えにくるのだけど、この前あきらを心配するあまり、電信柱に車をぶつけて、車を買い換えたばかりだ。 幸い瑞希さんに怪我はなかったけど、もしものことがあったらしゃれにならない。 瑞希さんに、「マナのことをよろしく頼みます」とお願いされている夜流にとっては、あきらが体調が悪いと自分も体調が悪いといいだして、あきらを夏樹家まで送っていくことにしていた。 「ほら、帰る用意できたから・・・一人で歩けるか?」 「うん・・・・歩ける」 夜流に手をひかれて、あきらはふらふらと歩きだす。 そのまま職員室にいって、二人とも体調悪いので早退しますと、早退届けをだす。 あきらはまだしも、担任は夜流に何かいいたそうだったけど、担任にあきらの母親瑞希は自分の子供は虚弱体質なのだと事情を話している。そして、一人で帰らせるのは心配で心配で無理だとも瑞希は教師に泣きついていた。唯一の親友で彼氏でもある夜流に送ってもらわなければ、心配で迎えに来ると瑞希は言っていた。それでこの前の事故だ。また事故を起こしかねないあきらの母親。この学園に一番寄付をしている、名家夏樹家のご息女になにかあったら、学園側もまずい。理事長からの特別扱いの容認。 あきらと、それに夜流だけずるいというバッシングもあるけれど、仕方ない。 職員室を出て、そのままあきらの鞄をもって、自分のブレザーをあきらの肩にかけて、あきらの右手をひいて学園から最寄の駅までいく。 そこでベンチにあきらを座らせる。 あきらはぼーっとしていた。 額に手をあてると、熱があがっている。微熱の範囲じゃない。 「大丈夫か?タクシーで帰るか?」 「ん・・電車で、大丈夫・・・・」 すぐに電車がやってきて、そのまま二人は乗り込んだ。 あきらは席につくと、夜流にもたれて、うたた寝をはじめてしまう。 そして、降りる駅までつくと、あきらを起こしてまたあきらの手をひいて夜流は駅の階段を降りる。 グラリ。 あきらの体が傾いだ。 「あぶねぇ!!」 なんとか危機一髪、あきらを抱きとめる。 反対側の階段から上に登っていく人や、同じ駅で下車した人たちの視線が集中する中、夜流はそんなことも気にせず、あきらを抱きあげると駅を出て、本当は自転車でそこで別れて二人は家に帰宅するのだが、タクシー広場にいくと、停まっていたタクシーに乗り込んで、あきらの家の近くのコンビニの前でおろしてもらった。お金は無論夜流が支払った。 「大丈夫、マナ!?」 あきらの自宅につくと、携帯で瑞希さんに連絡をいれていたせいで、我が子が帰宅するのを今か今かと待っていた瑞希に出迎えられ、そのまま夜流も夏樹家にあがった。 あきらはすぐにパジャマに着替えさせられて、ベッドに寝かされた。 氷マクラを取り出したり、瑞希さんは忙しそうにしていた。 「母さん・・・・大丈夫、だから。夜流・・・帰んないで。側に、いて・・・」 熱で潤んだ瞳であきらが視線を彷徨わせる。 「ごめんなさいね、如月くん。マナを送ってくれてありがとう。よければ・・・今日、泊まっていってくれないかしら。自宅には電話をかけておくから。マナ、倒れたりするといつも心細くなってあなたの名前を呼ぶのよ。側に、いてあげてくれないかしら。私、お父様に呼ばれているのよ。夏樹カンパニーのことで・・・・一応、私社長だから。ごめんなさいね、ほんと。マナの側にずっといてあげたいけど・・・・生活もかかっているから」 瑞希は、悲しそうにマナとあきらを呼んで、額のタオルを裏返しにした。 チャイムがなる。 「いやだわ、もう迎えがきたわ。マナのこと、よろしくね」 瑞希は、女社長として如月カンパニーという企業を支えている、敏腕社長でもあった。 あきらのことを、マナとしてしか理解できない、精神的にイカれている部分もあるけど。それを除けば、とてもよい母親だ。 NEXT |