「風邪」A







水に濡らしたタオルじゃ役に立たないと思って、冷えピタシールをはると、あきらは少し楽そうになったように見えた。
「冷たい・・・・きもち、いい」

夜流は、ごそごそとあきらのベッドの中に入り、あきらの頭を抱き寄せた。
「ん・・・・夜流、うつっちゃうよ・・・」
「いいよ。構うもんか」
「ありがと・・・・」
あきらは、明るい茶色の光彩に夜流を映して、そして瞳を閉じる。
しばらくして、すーすーと寝息が聞こえてきた。
もう、風邪薬は飲ませた後だ。
本当は、おかゆか何か胃にいれてから薬を飲むべきなんだけど。あきらは食欲もないようで、解熱剤だけを飲ました。


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ピルルルル。
ピルルルル。

あきらの携帯がなった。どうしようかと思ったけど、夜流がかわりにでた。
「ごめん、あきらのやつ風邪で寝込んで・・・・・」
「やぁ、愛してるよ俺の子羊・・・あれ、残念だなぁ。如月夜流君か」
「てめぇ!何、あきらの携帯にかけてやがる!何様のつもりだ!」
「あれ?知らなかったのかなぁ。最近、俺はあきらに何回か携帯をかけているよ。あきらは、電話にでてくれないけどねぇ・・・でも、・・かわいい息子だよ、本当に。たいていあきらが倒れる時は、俺が電話をかけたりした後かなぁ。そこまで嫌われてるなんて、本当に哀しいけど、かわいいねぇ、あきらは」
ぞくりとした。
悪魔が、またあきらのすぐ側にきている。あきらの近くにいる。
「てめぇ、あきらに何かしたら本当に殺すからな!」
「やぁやぁ、怖いなぁ・・・あきらのナイトになったんだって?」
「なんでそれ・・・・」
「あきらが話してくれたよ・・・・なんて、嘘だけどねぇ。実は、ねぇ。あきらには教えていないけど、とっておきの情報があるんだよ」
「聞きたくもない!」
「おっと、切らないでくれたまえよ・・・・ふふふ、君とあきらに関係する、重要なこと、なんだよ」
ブツッ!
夜流はあきらの携帯を切った。
今度は、あきらの携帯のバイブが振動する。
多分、夏樹明人からの電話。さっきの、続きだ。

「あきらの血液型は、AB型。マナの血液型もAB型。俺の血液型はB型。瑞希の血液型はA型。それで、だねぇ・・・・」
夜流は、歯軋りしながら、明人の言葉を聞く。
「君の両親の血液型、知ってるかな?」
「んなの知るかよ!」
「じゃあ、君自身の血液型は?」
「B型だよ!なんか文句あるのか」
「いやいや。実に素晴らしいよ・・・・探偵をやとって、君の両親のことを、ちょっと調べさせてもらったのだけど。両親ともに公務員なんだってねぇ」
「だから、なんだ」
「君の父親、如月織絵(キサラギ オリエ)はO型。君の母親、如月真理奈(キサラギ マリナ)もO型」
「・・・・・・・・・何が、言いたい」
「君は、両親の実の子じゃないと、今思っているのかな?」
「お前のふざけた言葉なんて、信じない」
「それが、だねぇ。まだあるのだよ。俺は、瑞希と付き合う前、ある女性と付き合っていた。その女性の名前は春日真理奈(カスガ マリナ)・・・・君の、お母さんの旧姓は春日だろう。これ、俺のいってる意味、分かるかなぁ?」
明人の声が、遠くで聞こえているような気がした。こんなに、近いのに。
「真理奈はねぇ・・・・妊娠したまま、俺を振って、許婚の男性と、結婚したんだよ。そして、俺もまた婚約者であった瑞希と結婚した・・・あの頃は、二人とも若かった。一緒になると約束して・・・俺は振られた。真理奈が妊娠しているなんて知らなかった。探偵の調べで、君の母親が付き合ったことのある女性真理奈だと知って驚いた。それから、真理奈ができちゃった結婚したことにも驚いて・・・・彼女は真面目な人だったから・・・・そんなわけなないだろうと、半ば悪戯心で君の両親と君の血液型を調べたんだよ。O型とO型の間に、B型の子供が生まれるわけがない。養子か・・・そうでなきゃ、違う相手の、子供。俺は、B型なんだよ、夜流」

「ふざけんな!!!」

「もう一人の、愛しい、俺の子供。君はどこかあきらに似ていたね。顔立ちは似ていないけれど、雰囲気というのかな・・・・どことなく、あきらと共通する点がある。どうだい、これでもまだあきらを愛しているっていえるかい?」

「いえる。あきらを、愛してる。お前のたわごとが本当でも、実の兄弟だったと本当にそうだったとしても、愛してる」
「あはは・・・・君なら、そういうと思ったよ。あきらも愛しいけれど、君も愛しくなったよ。俺の大切な夜流、あきら・・・・」

「しんじまえ!!」

夜流は、思い切り叫ぶと、携帯を切った。
それきり、明人から連絡はなかった。

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「ん・・・どうしたの、夜流・・・・・」
「なんでも、ねぇよ」
乱暴にあきらを抱き締める。まだ熱のあるあきらの体は火照っていて、夜流は冷え切った自分の指をあきらの頬にあてる。

「何・・・・・んうっ」
「はっ・・・愛してる・・・・俺らが、たとえ・・・・でも、俺はお前のことを愛してる。背徳の限りの行為だとしても、好きだ」
あきらにディープキスを繰り返す。

耳に、ずっと笑う明人の声が、こびりついて、離れなかった。


 




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