「創立記念日」@







11月の終わり。
寒さも少し厳しくなってきた。
今日は学校の創立記念日だった。金曜で、そのまま土日と連休になる。
あきらは夜流と一緒に、透とそれに学校の終わったマサキ、哲とつるんで公園のベンチに座ったりして雑談をしていた。
あきらの風邪はもう治ったけど、あきらを心配する母親は、あきらに厚着させていた。ふわふわの耳宛にふわふわのマフラー。真っ白のロングコート。白のブーツ。
白一色で統一しているのに、ツインテールに結ったリボンだけが黄色だった。
あきらがお気に入りの、双子の姉のマナが買ってくれた、形見でもあるリボン。
あきらはぶらんこに乗ってはしゃいだりしていたけど、夜流はどこか暗い影を背負っていた。全部、夏樹明人のせいだ。
いつどこであきらを狙っているのか分からないので、夜流はいつも通りあきらと行動していた。

「夜流、最近元気ないねー」
ブランコをこぎながら、ベンチに座った夜流にあきらは夜流の心中も知らずに、明るい声を投げる。
「あー。ちょっと、いやなことあってな」
「なになに。俺でよかったら、相談にのるよ」
あきらに相談できるはずがない。
透にも、マサキも哲にも無理だ。
まして、両親などもっと無理だ。

あれから、一度夜流は自分の血液型と両親の血液型が違うことについて、父と母に尋ねた。
返ってきた答えは。
「いつか、話そうと思っていた」
父の、重い言葉だった。
父には、子種がないのだという。
でも、実の子として愛しているといわれた。母親は泣いていた。
「隠していてごめんなさい」と。ずっとずっと、泣いていた。
母親は、違う男の子供を身篭ったまま、父親と結婚したと話した。その男の名前は・・・・。

夏樹明人。

明人がいっていた、ばかげた話は、本当だった。
その会話で真実を知った夜流は、両親に「俺は父さんと母さんの子だから」と無理をいって、母と父を安心させようと無理に明るく振舞い続けた。
親戚の、夏樹あきらが夏樹明人の子供だと両親は知っていた。
知っていて、隠していた。半分血が繋がった兄弟だと告げずに。いや、あきらのことをまだ女の子と思っているので、半分血の繋がった夜流の妹と両親は思っているのだろう。

完成したパズルが、崩れていく。
足元から。
そんな気がした。
崩れたパズルのピースは、もう元には戻れない。
狂ってしまった軸は、もう元には戻れない。

「夜流、今日も俺んち泊まってくよな!」
あきらが、気づく目の前にいた。
最近、いつにも増して、夜流は外泊が多くなった。家に電話もいれない。両親も、どう夜流に接していいのか分からずに、夜流を放置する。
週末だけでなく、我が家のように夏樹家に帰宅してはそのまま泊まって、夏樹家から夜流は学校に通うようになっていた。
家にいたくない。
あきらが弟だって知ったけど、でも夜流はだからといって恋人をやめようとせず、あきらを守るようにあきらの側にいて、あきらのことを見守っていた。
「今日は創立記念日だけど・・・・なんかいつも通りの休日だよなぁ」
「そうだな」
「昼ブラブラ歩いて散歩してみたけど・・・やっぱ夜流がいないとつまんない。ナンパされまくるし」
あきらは、夜流の手をひいて一緒にブランコに乗ろうと誘ってきた。
「ブランコ、乗ろうぜ」
「ああ、いいよ」
キーコキーコ。
まるで今の夜流の心のような寂しい音がする。
二人はブランコをこいで、それからコンビニにいったマサキを出迎えて適当にベンチで間食をとると、そのまま解散することになった。
マサキと透は、このあと予定があるらしい。哲も、最近塾に通い出した。

青春って、こんなもんなんだろうか。

夜流は夕焼けの空を見上げる。
つられて、あきらも空を見上げる。
「夜流・・・・・母さん、今日会議で遅くなるからホテルに泊まるって」
「そっか・・・・・俺らも、帰ろうか」
夜流とあきらは、マサキと透、テツと別れて自転車に乗った。そのまま、あきらの自宅に向かう。

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あきらの自宅の前に、見慣れぬ高級自動車がとまっていた。そこで、立ったまま煙草をすっている、見知った影を見つける。
「てめぇ!どの面さげてここにきやがった!」
後ろに、あきらを匿う。
「何・・・・愛しい我が子二人を、直にみたいと思ってね」
夏樹明人は、煙草を地面に投げ捨てると、革靴で踏み潰して火種を消した。
あきらが気を失うのではないかと夜流は懸念したけど、あきらは顔色一つ変えず、明人を無視してガレージに自転車をとめて、荷物をとりだす。
「あきら、何かパパにいうことはないのかな?」

「・・・・・・・・うぜぇ。死ねよ」

あきらは大分精神的に強くなっていた。全部、夜流が側にいてくれるお陰だった。
「我が子ながら、汚い言葉遣いだな」
「近寄るな。警報ブザー鳴らすぞ。警察呼ばれたい?」
「おやおや困ったなぁ。まだ、何もしていないのに」
「マナにしたこと、俺は忘れてないからな!」
「じゃあ、あきら、自分の身に起こったことは?」
「うぜぇ。消えろ」
あきらは精一般のタンカをきった。
明人は、苦笑して車に乗り込むと、そのまま去っていった。



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