「クリスマス」B








ショッピングモールの1Fを過ぎてそのままエレベーターに乗って、婦人服売り場のフロアを通りすぎて、止まった。
「夜流?」
「ここでいいかなぁ。カジュアルなかんじがいいし」
そこは、ティーンズ向けのアクセサリー売り場。
シルバー細工のものや、安い宝石をあしらったものを売っている場所だった。
「いらっしゃいませ。あら、かわいらしいお嬢様。彼女さんですか?」
三十代後半くらいの女性の店員が声をかけてきた。
「あ、はい。彼女に似合うようなかんじで、ペンダントを一つと。シルバー細工のペアリングを探してるんです」
夜流の言葉に、あきらが顔をあげる。
「俺・・・・」
あきらは顔を紅潮させて俯く。
「ペアリングでしたら・・・今年は、このようなデザインが人気ですが」
「うーん。もうちょっとシンプルなデザインないですか?あ、予算はペアリングは2万以内で」
夜流は、真剣に勧められる商品を吟味していく。
「そうですね。シンプルでシルバー細工ですと、これやこれやこれなど・・・・」
一番最後に勧められたものに、あきらが反応した。
「かわいい・・・」
シンプルだけど、花の細工が細かくされていて、あきらはそれが気に入ったようだった。
「これを。俺と、この子の指のサイズであうやつでお願いします」
「かしこまりました」
店員は、あきらと夜流の指のサイズを測ってから、商品を並べている下から袋につまって、何号サイズとかかかれたペアリングを出して、二人の指のサイズに合うものをみつけだす。

「こちらのですと、ペアのセットで17980円(税込み)となります」
「じゃあ、それお願いします」
「かしこまりました。包装いたしますか?」
「いいえ。はめて帰るので」
「ありがとうございます」
店員にわたされた指輪を、夜流は受け取って、地面を見つめて潤んだ瞳をしているあきらの手から手袋をとると、指にはめた。
夜流も、自分の指にはめる。
「ペアリング買おうって、この前いっただろ?」
「覚えて、たんだ。てっきり冗談だと」
「せっかくのクリスマスだしな」
夜流は優しく微笑んだ。

「あきらは、なんの宝石が好き?あ、高いのむりだから。ここの店であるような・・・ペンダント。どんなのがいい?」
「俺・・・・・・」
「遠慮しなくていいから」
ビーズ細工なども並ぶ、ティーンズ向けのアクセサリーショップで、あきらは目を彷徨わせる。
きらきらして、どれも綺麗だけど。
あきらは、母親が買ってくるアクセサリーを身につけることはあるけど、ねだったことはない。だいたい、母親の瑞希が選ぶのはエメラルドとかルビーとかサファイア、ダイヤモンド・・・どれも大粒のもので、高校生のあきらがするには少し不釣合いというか、年相応に見えない。
だから、ちょっとしか十字架細工のペンダントをする時もあるけど・・・実は値段は20万とか。桁が違うので、あきらはアクセというものにあまり興味を覚えず、自分で買うこともなかったし選んだこともなかった。
あきらは、自分の胸が高鳴るのを隠すこともできないまま、いろんなペンダントを手にとってみる。
「俺・・・・アメジスト、がすき」
「じゃあ、これは?」
夜流が選んだのは、ハート型にカットされた少し大きめのアメジスト。チェーンはホワイトゴールド。値段は4万円。
「・・・・高くない?夜流、お金・・・・」
「大丈夫。今日の日のために、秘密のバイトしてたから。これくらいなら、大丈夫」
夜流が選んでくれたそれは、あきらの目にとまったものと同じだった。
ハート型の中は一部くりぬかれているのか、小さなダイヤモンドが入っていて、きらきら光っている。
「すみません、このペンダント買います」
「はい、ありがとうございます」
店員はにっこり笑う。
決算をすませて、包装しようするのを拒んで、そのままあきらの首にかけてあげた。

「大変よく似合っていますよ」
「あ、ありがと・・・」
あきらは真っ赤になって、店員のお世辞でもない本当によく似合っている姿に俯いて、夜流とまた手を繋いだ。
手袋を外した指と指から、体温が伝わる。

「さて、あとはクリスマスケーキ買って・・・・・かえろっか」
「うん」
小さく呟いて、恋人同士は、帰路に向かう。
途中で、ケーキ屋さんで小さめのクリスマスケーキを買って、そのままショッピングモールの外に出る。

キラキラと、イルミネーションが綺麗に耀いていた。
まぶしすぎて星は見えなかったけど。二人は空を見上げる。

「なぁ、来年もまたこうして二人で祝おうな」
「うん」
にっこり微笑んだあきらの笑顔。
ツインテールの髪が揺れて、夜流のコートの肩に触れる。

他愛もない約束。
恋人同士なら、ごく当たり前のような。

でも、その約束が果たされることは、永遠になかった。




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