そのまま、あきらの家に一緒に帰宅する。 あきらの母親瑞希は今日も仕事でいない。 「ケーキにろうそくたてて火つけていい?」 「ああ、いいぜ」 あきらの部屋のテーブルにケーキを出して、二人分の皿とフォーク、あとコップを用意する。 あきらは1本だけ、ケーキのおまけについてきたろうそくをたてると、それにマッチで火を灯した。 「なんで、1本だけ?」 「俺らが、出会ってまだ1年ちょっとだから」 あきらは照れくさそうに笑った。 出会って今まで過ごしてきた年月の数だけの、たった一本の蝋燭。 キャンドルもない、地味なものだったけど。 二人には、それで十分だった。 「消していい?」 「ああ」 ゆらゆら踊る炎の照らされて、真っ白なあきらの顔に陰影がつく。茶色の光彩に映された炎が綺麗だった。 あきらはふっと息を吹きかけてゆらゆら揺れる紅の炎を消し去る。 「メリークリスマス」 「メリークリスマス」 あきらの部屋に備え付けられていた小型冷蔵庫から、メロンソーダを取り出してグラスに二人分注ぐ。 チン。 二人はそれをぶつけて小さな音を立てると、乾杯した。 本当なら白ワインなんかで祝う場面なんだろうけど。二人はまだ未成年だ。 今は、これで十分。 夜流はケーキを綺麗に切り分けると、あきらの皿にも乗せてやる。 チョコレートの板はあきらに。かざられていた苺もフォークであきらのケーキに乗せてやった。 「ありがと・・・・」 受け取ったケーキの皿を手に、あきらは目を潤ませた。 「俺・・・マナ以外の誰かとクリスマス祝うのはじめてなんだ。いつも、マナが父さんと母さんに祝福されて・・・影で、俺はそれを見て泣いて・・・・それで、マナが両親が寝静まった後に、残っていたケーキを取り出してきて、俺を祝ってくれるんだ。誕生日も、ずっとそんなかんじだった」 母親にも父親にも普通の愛情をもらわなかったあきら。 半身であった双子の姉のマナが、あきらの孤独を癒していた。マナを失った今、あきらには夜流しかいないといっても過言ではない。 「おいしい」 ケーキをフォークでさして、あきらは食べていく。 同じく、夜流も一緒に食べていく。 二人で他愛もない会話をして、ケーキを食べ終わって、それからあきらは目を彷徨わせた。 「あきら?」 「あの・・・・ごめんな、夜流。ペンダントとかもらったのに・・・・おれ、クリスマスプレゼントろくなの用意してなかった・・・・こんなの、しか」 あきらが、机の奥から取り出したのは、育毛剤だった。 「えーと?俺はげてる?」 「いや・・・なんかね、薬局でなんか買おうって思って・・・テンパって、気づいたらこれ買ってた」 ずいっとさしだされる育毛剤。 どこからどう見ても育毛剤。 「でも、夜流は苦笑しながら、それを受けとる」 「まぁ、はげたら使う」 「はげないよ!夜流は絶対はげない!」 「これ、告白だろ?はげるくらい年いっても、一緒にいようっていう」 「え」 思いもつかなかった言葉に、かぁぁぁとあきらは顔を紅潮させた。 「あ、うん。そういうことで・・・・」 夜流は、グラスのソフトドリンクを飲み干してから、そわそわしているあきらを腕の中に収めると、その首に飾られたペンダントのアメジストを掴んだ。 「星みたいだよなこれ・・・ここらへんは都会に近いから星は見えないけど」 「うん。綺麗だね、これ」 自然と縮まる二人の距離。 「キスいていい?」 あきらから、問いかけてきた。 夜流は、それに答えずにあきらに口付ける。 「ん・・・・・・」 音もでない、触れるだけの優しいキスを何度も何度も何度も繰り返す。 あきらは、瞼が熱くなり、閉じた瞳の奥から涙が零れ出すのを感じていた。 幸せという気持ちは、多分今ここにある。 「なんで、泣いてるの?」 夜流に問われて、あきらは涙を流したまま夜流を見上げる。 「幸せすぎて、怖いから」 「大丈夫、ずっといるよ。一緒に」 「うん・・・・」 握り合った手は、決して離れないことを誓っているかのように。 もしもこれが運命なら、どうかこのまま未来へ繋がりますように。 でも、螺旋していく二人の運命は、クリスマスを境に大きく変わる。 交差する、瞬間の、煌き。 人の命が耀く刹那。 「俺、夜流がいてくれたら、もう何もいらない」 「俺も」 幼い恋人同士の甘い言葉を、螺旋する運命は浜辺の砂を削る波のように攫っていく。 二人の指の間から、白い砂が零れ落ちていくように。 愛という旋律は、銀の涙を零して零れ落ちていく。 NEXT |