「茨の眠り姫」A








「夜流〜。待てよ」
「あ、ああ」
透が、学校で話しかけてきた。
夜流は、あきらの席に腰掛けていた。
あきらは、1年の終わりに事故で意識不明になったが、出席日数の問題もあり、2年には進級できた。でも、多分このままでは3年になれないだろう。
2年になってから、1回も登校してないのだから。

「あきら、さ。どして目覚めないのかな?」
「そんなの・・・・俺が聞きたいよ」
夜流は哀しそうに笑って、透の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「何すんだよ!」
「お前は・・・そのままでいろよ。マサキも哲も・・・・もう、あきらみたいなのになるのは、嫌だ」
サァァァァア。
窓の外を見ると、桜が散っていく。
「桜・・・・あきらと、見たかったなぁ」
あきらとみんなと、花見しようとあの頃はすぐ近い未来のことを考えていたっけ。

なぁ、あきら。
お前を守ってやれなかった俺を、許してください。
なぁ、あきら。
俺の名前を、もう一度呼んでくれないか。
もう、一度だけ。

**************************

キーンコーンカーンコーン。
休み時間の終わりを知らせるチャイムが鳴って、みんな慌しく席につく。
透とあきらと夜流は、2年でも同じクラスになった。
透は、家出したマサキと今一緒に暮らしている。もともと透は母親と二人暮らしだったのだが、2年からマンションで一人暮らしをはじめ、そこに家出したマサキが転がり込んできた。
夜流や哲もよく透のマンションには遊びにいく。
賃貸のわりには綺麗で広めな部屋だ。

「俺さ・・・・」
「ん?」
最近は、夜流は透の相談役になっている。
透は、もともとマサキのことが好きで、2年から付き合い始めたらしい。
でも、一緒に暮らしているけどぶつかってばかりで、あまりうまくいっていないらしい。
「どうすれば、あきらと夜流みたいにうまくいくのか、わかんねぇ・・・」
「それは、俺にも分からない」
夜流は、いつものように哀しい瞳で空を見上げる。

「はい、着席〜」
英語の教師がきて、授業がはじまる。
その日の全部の授業を終えて、夜流は久しぶりにあきらの見舞いにいかずに、そのまま透のマンションに行った。
「よお、夜流〜」
高校を中退したマサキは、今はフリーターでバイトをしている。
今日はたまたま休みだったらしく、透の部屋にいた。
「よお、マサキ。元気か?」
「元気もなにもなぁ。漫画読みすぎてねみい」
「ほどほどにしとけよ」
「マサキ、お前またかってに人の漫画読んだな!読むのはいいけど、ちゃんと直しとけよ!」
「えー、いいじゃん。それくらい、透自分でしろよ」
「てっめー!誰の家だと思ってやがる」
「俺だってちゃんと生活費だしてるじゃんか!」
ぎゃーぎゃーいいあう二人は、夜流から見ればぶつかっているというよりじゃれあっているように見えた。
「もー。夜流もなんかいってやれよ。マサキのやつ、高校やめるわ、ほんと将来のことちゃんと考えてんのかよ・・・・・」
「いんやー。考えてない。でも、透と一緒に暮らすためなら、ちゃんとした就職もするぜ?」
真顔で、マサキが透の手を掴んで囁く。
「はいそうですか。俺は進学する」
透は、マサキの告白を綺麗に受け流す。

「俺も・・・・進学は、する」
ぽつりと呟いた夜流に、透が身を乗り出した。
「やっぱ、留学するのか?」
「いや、それはやめた」
「まじかよ!お前、この前の学力テスト全国8位だったらしいじゃねーか!英語得意科目だろ!英検2級もってるし・・・・もったいねー」

「あきらを、一人にしたくないから」

「あ・・・・ごめん」
透はマサキに頭をはたかれていた。




NEXT